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新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染リスクを避け、テレワークの導入やオフィスの分散化を検討する企業が増えています。
このようなコロナ後の働き方を見据え、人口が密集し感染リスクの高い都市部から、地方でのサテライトオフィスを活用した働き方を提案する自治体による取り組みも始まっています。
今回は、コロナ禍においてサテライトオフィスの活用を進めている企業の事例や、サテライトオフィスの誘致を推進する各自治体の補助金制度などを紹介します。
サテライトオフィスとは?
サテライトオフィス(Satellite Office)とは、企業や組織の本社から離れた場所に設置されたオフィスのことです。
本社を中心とした場合に衛星(サテライト)のように存在するオフィスという意味合いで命名されています。
サテライトオフィスは、通勤などで混雑する都市部を避けて設置されることが多く、従業員は通信設備や業務用の設備の備わった環境でテレワークを行うことができます。
サテライトオフィスの設置により、テレワーク環境を用意
新型コロナウイルスの感染拡大によって、企業にはオフィスの感染対策の徹底やテレワークの推奨が求められています。
しかし、在宅でテレワークを実施する場合、従業員の自宅の通信環境や作業環境の不備による生産性の低下が懸念されますが、サテライトオフィスを活用すれば、ソーシャルディスタンスの確保や飛沫感染対策を実施したうえで、働きやすい環境を従業員に提供することが可能になります。
また、感染対策の観点から見ると、従業員を1か所に集めて業務を行うことは感染拡大のリスクを伴いますが、オフィスを分散することで“リスクの分散”にもつながります。
サテライトオフィス・在宅のテレワークが進んでいる企業事例
コロナ禍以前から現在に至るまで、サテライトオフィスや在宅でのテレワークが積極的に実施されている企業の事例を紹介します。
①リコー:在宅・サテライトオフィスの環境整備で出社率を抑制
事務機器、光学機器などを製造する株式会社リコーは、2018年から本格整備した「リモートワーク制度」により首都圏4事業所の2020年5月の平均出社率を7%まで抑えることに成功しました。
リコーの「リモートワーク制度」は、入社1年以上の正社員、定年再雇用社員、常勤嘱託社員を対象に、在宅とサテライトオフィスでのテレワークを可能にする制度です。
当初は在宅勤務の他に、国内の各事業所内に設置されたサテライトオフィスの中から最寄りのオフィスを利用する形態でしたが、2019年度からは外部のサテライトオフィス運営会社とも契約し、テレワークが可能な環境整備を進めてきました。
リコーは、2020年7月に開催予定だった東京オリンピックに合わせてサテライトオフィスの確保や社内ノウハウの構築を行ってきたため、新型コロナウイルス感染症の拡大後もスムーズな出社抑制が可能となったようです。
(参考::厚生労働省「テレワーク総合ポータルサイト」│導入事例 株式会社リコー)
②味の素:140以上のサテライトオフィスを確保、テレワーク率9割に
食品大手の味の素株式会社は、2017年からサテライトオフィスや自宅でテレワーク勤務が可能な「どこでもオフィス」という制度を整備し、2018年の時点で従業員の8割がテレワークを活用していました。
味の素は外部のサテライトオフィス運営会社と契約し、全国約140か所で利用可能なサテライトオフィスを確保しています。
また、全国の11事業所内にサテライトオフィススペースを、さらに東京と大阪2か所の社宅にサテライトオフィスを設置して、従業員のテレワーク環境を整備してきました。
2020年3月期の決算発表では、これまでのテレワーク推進施策を活かし、本社・営業・研究部門の従業員の約9割を在宅でのテレワーク勤務とすることを発表しています。
(参考:厚生労働省「テレワーク総合ポータルサイト」│導入事例 株式会社味の素)
③キャスター:拠点となるサテライトオフィスを展開
人材サービス事業を行う株式会社キャスターは、2019年時点で従業員のほぼ全員がテレワークを実施しており、サテライトオフィスの機能を持つ「キャスターオフィス」も東京、宮崎、札幌に開設しています。
このように環境整備が進んでいたこともあって、キャスターはコロナ禍においても約700人の従業員がテレワークで業務を実施しています。
(参考:厚生労働省「テレワーク総合ポータルサイト」│導入事例 株式会社キャスター)
自治体によるサテライトオフィス設置のための補助金・助成金制度
新型コロナウイルスの感染拡大後は、出社率を減らしテレワーク中心の働き方に移行したり、オフィスの分散を検討する企業が増えています。
これまでも都市部の企業が地方にサテライトオフィスを構えるケースはありましたが、コロナ後の新しい働き方を見据えて企業のサテライトオフィス開設を提案する自治体も現れました。
ここからは、新型コロナウイルスの感染拡大をきっかけに、サテライトオフィス設置の補助金や助成金制度を設けた自治体の事例を紹介します。
①新潟県長岡市:サテライトオフィス開設に最大 500 万円を補助
新潟県長岡市は2020年7月から、一定の条件を満たしたうえで市内にサテライトオフィスを新設した企業に対し、最大500万円を補助する「長岡市サテライトオフィス等開設促進事業補助金」制度を開始しました。
申し込みには以下のいずれかの条件を満たしている必要があります。
①本社機能の一部を長岡市に移転し、事業を行う
②長岡市内の企業や4大学1高専と連携し、デジタル技術を活用しながら地域の産業創出を進める協創型の事業を行う
補助対象経費は「オフィス開設費」と「雇用拡大支援費」で、それぞれ上限300万円、または1企業あたりの補助額は最大500万円に設定されています。
(参考:長岡市商工部産業立地課 │長岡市サテライトオフィス等開設促進事業補助金)
②栃木県足利市:空き店舗をサテライトオフィスに
栃木県足利市は、市内の空き店舗をサテライトオフィスとして活用する企業と空き店舗のオーナーを対象にした「足利市サテライトオフィス整備事業費補助金」の制度を7月から開始しました。
補助対象は、
・インターネット環境整備費
・電話回線・電気配線工事費
・照明・空調・セキュリティ関連機器の整備費
などの空き物件をサテライトオフィス化するために必要な改修費で、補助額は発生した経費の2分の1、最大200万円となっています。
(参考:栃木県足利市|サテライトオフィス整備事業費補助金)
③岐阜県:サテライトオフィス開設・入居経費の4分の3を補助
岐阜県は県外に本社がある法人が、県内にサテライトオフィスを開設、またはサテライトオフィスとして県内施設に入居する場合、経費の一部を補助する「岐阜県サテライトオフィス誘致推進補助金(入居事業)」の制度を7月から開始しました。
公募期間は2020年7月31日から2021年1月29日の間です。
補助金の対象は「拠点整備事業」と「入居事業(開設事業、管理事業)」に分かれ、「拠点整備事業」の補助対象経費は、
・建物取得費(古民家や空き店舗等の購入等)
・建物改修費(設計監理、内装工事、OAフロア化等)
・設備導入費(通信回線設備、セキュリティ設備、トイレ等衛生設備等)
=補助率4分の3以内で補助限度額は3000万円
「入居事業」の補助対象経費は
●開設事業
・建物改修費(内装工事、OAフロア化等)
・設備運搬費(事務機器等の移設等)
・設備導入費(通信回線設備、セキュリティ設備、トイレ等衛生設備等)
=補助率4分の3以内で補助限度額は2000万円
●管理事業
・賃借料(共益費を含む)
・通信回線使用料(固定した設備に係る回線の使用に限る)
・設備リース料(パソコン、コピー機などの事務機器)
=補助率10分の10以内で補助限度額は50万円
となっています。
(参考:岐阜県|サテライトオフィス誘致推進補助金)
④愛媛県:シェアオフィス運営企業を支援
愛媛県はサテライトオフィスとして利用できるシェアオフィスを運営する企業向けに、「サテライトオフィス誘致環境整備支援事業費補助金」の制度を8月から開始しました。補助率は4分の3以内、補助上限額は1000万円となっています。
支援対象の事業は「県内にシェアオフィスを新設する事業」で、すでに県内にシェアオフィスを運営している企業が所有する既存施設の改修費は、対象外となります。
補助金制度の目的は、コロナ後を見据え、県外企業向けにサテライトオフィス環境を整備することにあります。
申請受付期間は2021年9月30日までで、補助対象の経費は以下のような費用です。
・施設整備費(シェアオフィスに必要な施設整備費、施工管理費)
・物品購入費(シェアオフィスに必要な物品の購入に要する経費)
・調査費(通信環境の脆弱性確認調査、耐震調査など)
・広告費(シェアオフィスのを広報するための広告費)
(参考:愛媛県|サテライトオフィス誘致環境整備支援事業費補助金について)
地方のサテライトオフィス活用はリスク分散に有効
コロナ禍以前からサテライトオフィスを開設し、在宅勤務と組み合わせてテレワークを実施してきた企業は、すでにアフターコロナ時代を見据えた働き方を実践しています。
サテライトオフィスを設立することは、安全に事業を継続するというリスク管理の面で有効なだけでなく、都心のオフィスを縮小することによるコストの削減や、都市部だけではない日本全国から人材を確保する意味でも効果が期待できます。
各自治体の誘致も盛んになっている今、リスクの分散や回避、そしてオフィス賃料の削減にもつながるサテライトオフィスの導入を検討してみてはいかがでしょうか。
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