MANAGEMENT
INDEX
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響が長期化するなか、自宅やオフィスを離れて観光地やリゾート地などでテレワークをする「ワーケーション」という働き方が注目を集めています。
欧米で始まり、日本企業では日本航空株式会社(JAL)が2017年に働き方改革の一環として取り入れたワーケーションの取り組みは、ウィズコロナの時代にどんな効果が期待できるのでしょうか。
今回は、いまワーケーションが注目される背景や、実践事例、そしてワーケーション実施のメリット・デメリットなどを解説します。
ワーケーションの概要
ワーケーションとは「ワーク(仕事)」と「バケーション(休暇)」を組み合わせた造語で、自宅やオフィスを離れて観光地やリゾート地などでテレワークをする働き方を指します。
元々は米国で2000年代から始まった働き方で、日本ではテレワークが普及しているIT企業を中心に、従業員の生産性を高める目的で採り入れられてきました。
ワーケーションに注目が集まる背景
新型コロナウイルス感染症の影響が続く今、ワーケーションは「ウィズコロナ時代の新たな働き方」という位置づけで注目されています。背景には大きく2つの要因があると考えられます。
1つ目は「ワーケーションがコロナ禍で需要が落ち込んでいるホテルや旅行会社などの活性化につながる」という政府の期待、2つ目は「感染症対策をしながら旅行と仕事を両立したい」というニーズの高まりです。
企業のテレワーク浸透と観光業の需要拡大のため、政府はワーケーション普及に本腰を入れており、ワーケーション推奨の旗を振る環境省は7月31日、省全体でワーケーションを推進し職員が制度を利用しやすくするための方針を発表しています。
企業側はテレワークを継続しながら従業員の満足度を高められる働き方を模索する一方で、従業員側の外出が制限されるなか、3密を避けて旅行をしたいというニーズが高まっています。
そのような状況で、ワーケーションは従業員と企業双方の期待に応える働き方になり得ると期待されています。
ワ ーケーションに注力する自治体の事例①:和歌山県
2019年に全国65自治体で設立された「ワーケーション自治体協議会」の中心のとなった自治体の1つが和歌山県です。
和歌山県は全国に先駆け、2017年からワーケーションを「イノベーションを生み出す価値創造ツール」と位置づけ推奨してきました。
和歌山県は人口当たりのWi-Fi整備数が全国2位を誇るなど、テレワークに適した環境作りに取り組んできた実績があります。
海と温泉地を有する観光地としても有名な和歌山県白浜町はIT企業の誘致が進んでおり、2019年には三菱地所株式会社が町内にワーケーション専用施設「WORK × ation Site 南紀白浜」を開設しています。
また、和歌山県田辺市上秋津にあるグリーンツーリズム(農村や漁村で、自然や文化、そして地域の人々と交流を図りながら余暇を楽しむ活動)事業を行う施設「秋津野ガルデン」でも、2020年7月からテレワーク環境を整備し、ワーケーション施設としての利用を推奨してます。
小学校の旧校舎を活用した施設周辺で仕事をしながら農業や里山の散策などの体験が可能です。
ワーケーションに注力する自治体の事例:広島県
瀬戸内海に面した観光地である広島県福山市では、ワーケーション推進の取り組みとして「ワーケーションふくやま」を実施しています。
2019年にはモデルケースとして福山市田尻町でのワーケーション体験が行われました。
IT企業を主要な対象としたワーケーションを通じて福山市の魅力をアピールし、首都圏からの企業誘致や移住につなげる狙いがあります。
また、休暇と仕事の両立だけでなく、市内企業や地域との交流機会を通じたイノベーションの創出も目的に掲げています。
テレワークに特化した最新ワーケーションプラン
ここからは、各地のホテルや旅行会社が打ち出しているワーケーションのプランの具体例を紹介します。
オフィスチェアやデュアルモニターを貸し出すプラン
旅先でのテレワークでネックとなるのが不便な作業環境ですが、リゾート地でもオフィスのような環境を提供するホテルや施設があります。
部屋に備え付けの椅子ではなく、腰に負担をかけないオフィスチェアや、ノートパソコンにつなぐデュアルモニターの貸し出しに対応し、旅先でもオフィスにいるときと遜色のない環境でテレワークが可能になります。
家族とリゾート地で過ごすプラン
ビジネスパーソン単独でなく、ホテルや旅行会社では家族とリゾート地で休暇を楽しみながらテレワークを行いたい人向けの「ファミリープラン」も用意しています。
仕事に集中できる環境にプラスして、家族で楽しめる屋外の体験が盛り込まれているプランや、ホテルの敷地内でレジャー体験が可能なプランなどがあります。
コワーキングスペース、会議室が利用できるプラン
テレワーク環境が整っているコワーキングスペースが、長期でリゾート地に滞在する人向けにワーケーションプランを提供するケースも増えています。
利用者はコワーキングスペースが提携を結んだホテルや民泊に宿泊し、仕事時には作業の環境が完備されたコワーキングスペースに通う形式です。
また、Web会議用に大画面モニターと会議室を利用できるプランを用意しているホテルも増えています。
その他、ワーケーションのプランの検索や比較は、ワーケーション施設検索サイト「Workations」や三菱地所が運営するワーケーションポータルサイト「WORKxation」などが便利です。
ワーケーションを導入するメリットとデメリット
自社にワーケーションを導入した際に考えられるメリット・デメリットをそれぞれ解説します。
ワーケーション導入のメリット
企業がワーケーションを取り入れるメリットとして、従業員の満足度の向上が見込め、仕事の生産性が上がるという点が挙げられます。
ワーケーションによって、従業員はリフレッシュできる環境で仕事を進めることができます。
株式会社NTTデータ経営研究所、株式会社JTB、日本航空株式会社が2020年7月に発表した「ワーケーションの効果検証」では、ワーケーションに“組織の所属意識を向上させる効果がある”ことがわかりました。
また、ワーケーション実施中は仕事のパフォーマンスが参加前と比べて20%上がり、ワーケーションが終わった後も効果が持続することが判明しています。
(参考:「ワーケーションは従業員の生産性と心身の健康の向上に寄与する~ワーケーションの効果検証を目的とした実証実験を実施」|NTTデータ経営研究所)
ワーケーション導入のデメリット
ワーケーションを導入するデメリットは、通常のテレワークと同様に、対面で業務を行う場合よりコミュニケーションコストがかかる点や、業務環境における情報セキュリティ面に不安が残る点などが挙げられます。
旅先で休暇を楽しみながら仕事をするのがワーケーションですが、状況によっては仕事から手が離せなくなり休暇にならない可能性があるのもデメリットとして考えられます。
長い休暇を取りづらい日本企業では、ワーケーション中の仕事の割り振りや、就労時間について取り決めを作るなどの工夫も必要となるでしょう。
ワーケーションの導入は優秀人材獲得の一手
新型コロナウイルス感染症の影響で改めて注目が集まったワーケーションは、従業員の働き方にポジティブな効果をもたらすことがわかっています。
滞在先の感染症対策が徹底されているという条件や、セキュリティ対策など企業側が抱える課題はありますが、今後さらにワーケーションに対応した自治体や施設は増加すると考えられます。
また、ウィズコロナの時代のニーズに応える柔軟な働き方であるワーケーションは、優秀な人材を獲得する有効な施策の1つになりそうです。
こちらの記事を参考に、自社でワーケーションを取り入れる際に考えられるメリットとデメリット、そして従業員のニーズを確認し、導入の検討をしてみてはいかがでしょうか。