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新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の拡大により、私たちは感染への不安にさらされるだけではなく、新しい生活様式への対応も求められるようになりました。
環境の変化はストレスの要因のひとつと言われ、厚生労働省の公表資料によると、令和2年2月7日から7月31日までの精神保健福祉センターへの新型コロナ関連の心の健康相談件数は16,147件にのぼっています。
環境の変化については、企業運営においても例外ではなく、テレワークへの対応や感染症対策をしながらの業務従事など、従業員はストレスが多い状況に置かれていることが推察され、企業にはこれらの変化を踏まえたメンタルヘルス対策が求められています。
本記事では、コロナ禍での従業員のメンタルヘルス不調の要因やその対策などについて紹介します。
新型コロナ関連のメンタルヘルス相談件数が増加
前述の厚生労働省の公表資料「新型コロナウイルス感染症にかかる心の健康相談に関する精神保健福祉センターの対応状況」によると、各都道府県・政令指定都市に設置されている精神保健福祉センター(全国69か所)への新型コロナ関連の心の健康相談件数は次のとおりとなっています。
2/7~3/31 : 1,739件
4/1~4/30 : 4,946件
5/1~5/31 : 4,761件
6/1~6/30 : 2,586件
7/1~7/31 : 2,115件
2/7~7/31累計 : 16,147件
平成30年度に精神保健福祉センターに寄せられたメンタルヘルスに関する相談の延べ件数は約13万件なので、ここ半年の間に新型コロナ関連だけで例年の1割以上の件数の相談が寄せられたことになります。
月ごとに見ると緊急事態宣言期間中の4~5月に急増しており、コロナショックのインパクトの大きさを物語っています。
直近7月の主な相談内容としては、「感染に対する不安」「先が見えず、今後どうなるか不安」などの心の不調、「家族が在宅勤務で家にいることによるストレス」「オンライン授業になじめず、うつ状態になった」などの生活に関する不安・ストレス、「通勤時や職場で感染しないか不安」「他者の感染症予防対策に対する不安」などの外出や通勤等に関する不安・ストレスなどが挙げられています。
コロナ禍での従業員のメンタルヘルス不調の要因
前述の相談内容からは、環境の変化や先の見えない不安などにストレスを感じている人が多いことが分かります。
企業運営においても、コロナ禍で環境の変化や先の見えない不安が多く存在しています。テレワークへの対応や感染症対策をしながらの業務従事など、この数か月の間に就業環境は劇的に変化し、新しい日常さえこの先どうなるか不透明な状況が続いています。
ここからは、コロナ禍での従業員のメンタルヘルス不調の要因として、具体的にどのようなストレスが存在するのかを考えていきましょう。
コロナ禍でのメンタルヘルス不調:テレワーク中の従業員
まずは、テレワークをする従業員のストレスについてです。
パーソル総合研究所「テレワークにおける不安感・孤独感に関する定量調査」によると、テレワークに関する不安の上位は次のとおりとなっています。
①テレワーカー本人の不安
1位「相手の気持ちが察しにくい」39.5%
2位「仕事をさぼっていると思われないか」38.4%
3位「上司から公平・公正に評価してもらえるか不安だ」34.9%
②テレワーカーをマネジメントしている上司の不安
1位「業務の進捗が分かりにくい」46.3%
2位「相手の気持ちが察しにくい」44.9%
3位「相談しにくいと思うことがある」43.0%
この調査結果から、テレワークをする従業員はコミュニケーションや評価に関する不安を抱きやすいということが分かります。
コロナ禍でのメンタルヘルス不調:出社する従業員
テレワークの一方で、テレワークでは対応できない業務のために出社する従業員もいます。
出社する従業員については、前述の厚生労働省の公表資料の主な相談内容に挙げられているように、「通勤時や職場で感染しないか不安」を抱えていることが推察されます。
接客などの業務に従事する従業員には、「他者の感染症予防対策に対する不安」を感じている方も多いでしょう。
コロナ禍でのメンタルヘルス対策
前述のようなストレスは、事態の長期化に伴い、メンタルヘルス不調として顕在化していくことが懸念され、企業として従業員の不安を解消する対応を行うことが、コロナ禍でのメンタルヘルス対策として重要となってきます。
以下では、従業員の不安の解消を中心としたコロナ禍でのメンタルヘルス対策について、具体例を紹介していきます。
テレワークをする従業員のメンタルヘルス対策
コミュニケーションについては、前述のパーソル総合研究所の調査では、上司とのコミュニケーションについて対面と非対面(メール、チャット、電話、Web/テレビ会議)を比べると、非対面の方が報告・連絡・相談・雑談のすべてが対面と比べて行われない傾向にあるとしています。
特に相談や雑談が行われにくい傾向があり、Web/テレビ会議では雑談をする割合が13.7%にとどまっているのも注目すべき点です。
このようなテレワークの特性を理解し、それを補えるようコミュニケーションの機会を設けていくことが重要となります。
テレワーク時は対面時よりも上司との面談(オンライン面談)の機会を増やす、オンラインでランチ会を開催するなど、意識的にコミュニケーションを取るように心掛けていきましょう。
また同じ調査によると、評価については、観察力が高い上司ほどテレワーク中の部下と信頼関係を築けており、上司と部下の信頼関係がテレワーク中ーの評価面への不安や孤独感を抑制していると分析し、上司は部下の「スキルに関する情報」「業務に関する情報」「キャリアの意向に関する情報」を把握すべきで、部下に「見ていること」が伝わることも重要だと述べられています。
自らの業務も忙しいという上司もいるかもしれませんが、特に物理的に距離があるテレワークに関しては、まとめ役としてマネジメントに注力できる体制を整えいくことが肝要となります。
上司自身の業務については、その他の従業員も含めて棚卸しや取捨選択、平準化を行い、業務改善を進めていくと良いでしょう。
出社する従業員のメンタルヘルス対策
「通勤時や職場で感染しないか不安」については、時差出勤やローテーション勤務、手洗いやマスク着用、座席配置の見直しや換気の実施など、会社としてできる限りの感染対策を行いましょう。
現場任せにせず、会社として先頭に立って取り組むことで従業員の自社に対する信頼感が高まり、ストレスも軽減されることが期待できます。
「他者の感染症予防対策に対する不安」については、自社の方針を明確に打ち出すことが肝要です。
「会議は原則オンライン」「対面での会議は手指消毒・マスク着用をお願いする」など会社のルールとして定めることで、従業員は「会社のルールだから」と迷わず依頼することができ、心理的な負担は軽くなるでしょう。
より積極的なメンタルヘルス・マネジメントを
本記事では、コロナ禍での従業員のメンタルヘルス不調の要因やメンタルヘルス対策などについて紹介してきました。
今回紹介した対策の他にも、通勤のない在宅勤務では運動不足になりがちだという点に着目し、オンライン体操などを開催しても良いかもしれません。
運動はメンタルヘルスに良い影響をもたらすと言われており、コミュニケーション不足解消の一助にもなります。
また、今回の新型コロナウイルス感染症の拡大に際しては、刻一刻と更新される情報にヘルスリテラシー(健康情報を入手し、理解して意思決定に活用し、適切な健康行動につなげる能力)を身に付けることの大切さを痛感させられました。
今後は、従業員のヘルスリテラシーを向上させるために会社が情報提供や研修などの機会を設定することも、より積極的なメンタルヘルス・マネジメントとして重要になってくると考えられます。
(執筆: 特定社会保険労務士 水間 聡子)
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