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INTERVIEW

【テレワーク関連受賞多数】TRIPORTに聞く─テレワークを成功に導くために越えるべき3つのハードル

2020.06.08

TRIPORT社インタビューのメイン画像です。

 

akerutoでは、“はたらく”における現在進行系の課題でもある、ウィズコロナ/アフターコロナ時代の働き方を考えるための特別企画として「コロナ後のはたらく」をテーマにした全3回のインタビューシリーズを企画しました。

 

その1回目のインタビューとして、『輝くテレワーク賞 特別奨励賞(厚生労働省)』、『東京都女性活躍推進大賞(東京都)』、『テレワーク推進賞 テレワーク実践部門優秀賞(日本テレワーク協会)』などの賞を総なめにし、“働き方改革”の文脈の中でいま最も実践的な企業と注目を集めるTRIPORT株式会社を採り上げます。

 

創業当初から「全社員テレワーク」を実施し、次々と新しいサービスを生み出しながら急成長を続けるTRIPORT社。
岡本秀興社長が考えるテレワークを成功に導くために必要な要素とは。

 

TRIPORT社の企業ロゴです。
TRIPORT株式会社
代表取締役社長
岡本 秀興 氏

中央大学経済学部卒。在学中に社労士試験合格。株式会社オービックビジネスコンサルタント(OBC)に入社し、システムエンジニアとしてHR系クラウドサービスなどの開発に従事。2014年にTRIPORT株式会社を創業。現在、TRIPORT株式会社、TRIPORT社会保険労務士法人の代表を兼任。

一人ひとりに最適な労働環境を追求していった

――まずは、御社の事業内容からお聞かせください。

現時点における主要事業は「助成金コーディネート事業」と「クラウド社労士コモン」の2つです。

 

前者は「もっと社員の成長を促すような社内体制の強化を行いたい」「会社の福利厚生を充実させたい」「ITなどへの設備投資をより増やしたい」「もっと女性が活躍できるフィールドを作りたい」といった各企業の経営方針を、企業情報と共にヒアリングし、その企業の要望に合った助成金をコーディネートするというサービスです。

弊社は社労士法人でもありますので、そこに労務監査の概念を組み合わせ、助成金申請支援までをワンストップで提供しています。

 

一方の「クラウド社労士コモン」は、“1人の士業と顧問契約を締結する”という従来型のサービス提供方法ではなく、ITのクラウドサービスを利用するような感覚で、各種専門家たちのスキルや専門知識といった付加価値をオンラインで提供するというサービスになります。

利用企業ごとに専用のチャット空間を用意して、その企業に合った法改正や行政手続対応、あるいは助成金などの、人事・労務に関連する有益な情報を最適なタイミングで発信するという、独自の仕組みを作っています。

また情報発信をする流れの中で、そのままチャットや電話、TV会議で労務相談もオンラインで受けられるようになっています。

加えて、希望する企業には、労務相談のみならず、社労士の専門業務である各種就業規則や帳簿の作成代行、さらに助成金申請までフォローアップしていきます。

 

――それらの事業をテレワークで運営されているのですね。

弊社は今年7月で7期目を迎える会社ですが、創業当初から全社員テレワークを実施し、採用から入社直後の教育、あるいはお客様との商談も含め、すべての業務をリモートで対応できる環境を構築しています。

少し前から国内の労働人口の減少が叫ばれていますが、弊社はベンチャー企業なので、“どうしたら優秀な人材を集められるか?”を考える中で、働きやすい環境にフォーカスして社内設計を進めてきたという背景があります。

 

今回、多くの企業が新型コロナウイルス感染症という重大な問題に直面したため物理的に集まらずに働かざるを得ない状況になっていると思いますが、私はそもそもコロナに関係なく“テレワークは経営上、利益を向上させる最高の経営手法の1つだ”と考えていました。

人は30代、40代になれば、実家の親の面倒を見ることになったり、家族の転勤に付いて行かざるを得なくなったりなど、プライベートな理由で同じ場所に住み続けられなくなるということが起こりがちです。

でも、テレワークが当たり前にできるような環境があれば、居住地が変わっても働き続けることができるので、離職率が一気に減少します。機会損失を含む退職コストを考えたら、長く働いてもらった方が良いに決まっています。そのための環境を作るという構想で、創業時からずっと考え、実行してきたという経緯があります。

 

現在、弊社の社員は北海道から沖縄まで各地に点在し、在宅勤務をベースとしながらも、全国のコワーキングスペースやシェアオフィスなども活用して働いています。そして、月に一度は任意ではありますが全体出社日を設け、交通費や宿泊費はすべて会社持ちで東京に集まるようにしています。

TRIPORT社のメンバー居住地マップです。

画像提供:TRIPORT

 

やはり、人と人が直接会うことで得られるものというのはあるので、対面でのコミュニケーションも大切にして、定期的に集まる研修や懇親会などを実施しています。

 

――職種や業種によってテレワークが困難なケースもあるかと思いますが、御社の場合は、最初からテレワーク前提で働き方や活躍の仕方を設計し、サービスも構築してきたということでしょうか?

その通りです。キーワードとしては“従来の働き方”からの脱却、つまり「場所的制約」と「時間的制約」の排除をできる限り進めていくべきだと考えています。その点で、テレワークは地理的なハードルを低くすると同時に、時間的な制約を減らすこともできる働き方になります。

 

例えば、子育て中の女性を考えたとき、子どもの体調不良で早退する必要が出てきたり、数時間だけ抜けたいときでも丸々半休になってしまうなどの問題があり、育児をしながらフルタイムで働くのが難しいこともあると思います。私としては、そういった課題を全て解決したいと思っていました。

 

いかに社員にとって働きやすい環境を作ってあげられるかを考えたときに、ベストなのは、“一人ひとりに最適な労働環境・雇用契約内容”を作ってしまうことです。

「週5日勤務で、1日3時間だけ働きたい」という人もいれば、「週3日のフルタイムで働きたい」という人もいます。働くということに対する社員のニーズは、プライベートのライフスタイルに合わせて定まってくるので、仕事とプライベートの両方に配慮するとなると、パターンは無限に出てきます。

私としては社員全員に“ここで働き続けたい”と思ってもらいたかったので、働きやすさを追及していった結果、現在のスタイルにたどり着いたという感じです。

コミュニケーションの効率化を図るための3つのハードル

――社員の働きたいという希望を正しく把握して、その人たちが活躍できる環境や制度を作ったとのことですが、制度設計にあたって重要視した点は何でしょうか?

最も重要なのはコミュニケーションの効率化だと思いますが、それを実現するまでには3つのハードルがあります。

 

まずICT関連機器を導入して、「テレワーク環境を仕組みとして作り上げる」というのがレベル1のハードルです。それを乗り越えると、次に「社内制度設計上の問題」というレベル2のハードルが待ち受けています。

 

例えば、テレワーカーを対象とした勤怠管理方法ひとつをとっても、家庭の事情等による“中抜け”など、会社側が把握できない状態が少なからず発生すると考えられます。
そうすると、会社によるテレワーカーの監視体制が構築されていない限り、残業時間などの計算は曖昧になるでしょう。

理想論で言えば、経営者はこのような監視体制は望まず、テレワーク時でも社員には自律した働き方をしてもらいたいと考えていることが多いと思います。しかし現実には、社員に対し“きちんと働いているのか?”というネガティブな感情が経営陣に生まれることも事実であり、逆に社員側には、通勤時間が無くなったため、“思った以上に長い時間働いてしまっている”という感情が沸き上がったりもします。

お互いに気を遣って言うに言えない状況がフラストレーションとなり、結果的に離職につながる恐れもあります。

経費精算についても同様で、在宅勤務時には、プリンターの使用や電話、郵送物など、どこまでを会社が負担するのかを明確にしないと、社員はストレスを感じる可能性があります。

 

そして、最後のハードルが「相手に配慮したコミュニケーション」です。
弊社もレベル2まではなんとか作り上げることができましたが、レベル3は非常に手ごわく、かなり苦労しました。コミュニケーションに苦労をしたのは、人の価値観が大きく関与するところだからです。

 

「毎日のように人と顔を合わせて話をしたい」という人もいれば、「週に一度顔を合わせれば十分」という人もいます。

また、ワークライフバランスの観点から、仕事と私生活のどちらに重きを置いているかも人によって違います。
独身の人、夫婦で暮らす人、子どもがいる人、親と同居している人など様々なケースがあるので、相手に配慮したコミュニケーションがとても大事になります。

そして、テレワークだからこそ、この問題が著しく顕在化するんです。

 

――御社のように、最初からテレワーク前提で組織を作りあげても、そういった問題が生じるのですね。

そうですね。でも、常にPDCAを回してブラッシュアップしていけばどんどん良くなるのは間違いなく、実際に創業当時よりも今の方が、圧倒的に環境は良くなっています。

コミュニケーションに対する現場の不平不満も、1つずつではありますが地道に解消しており、昔を知る社員からは「着実に改善しているし、もっともっと良くしていきたい」というポジティブな声も聞けています。

 

――レベル3のハードル「相手に配慮したコミュニケーション」をクリアするには、どのような取り組みや工夫が必要になりますか?

意外と効果があるのはエモーショナルアイコン、つまり絵文字を活用したコミュニケーションです。

チャットやメッセンジャーなどの社内コミュニケーションでは、絵文字を多用していて、社員が入社する際にも、あえて「絵文字をたくさん使うよう」に伝えています。句点で終わっている文章では、その人の感情が分からないので、発言しているその人がどういう感情なのかを絵文字で表現するようにしています。

文章だけだと対面で会うコミュニケーションより伝達率が低いとされていますが、絵文字で感情を表すことでコミュニケーションの伝達量を上げていこうという考えです。ビジネスチャットに絵文字が多く用意されているのには、そういう背景もあると思います。

 

もちろん、チャットだけで済ませるつもりはなく、絵文字を含む文字コミュニケーションがすべてだとも思っていません。コミュニケーションを取る方法はたくさんあります。最上位にあるのが対面で、次にテレビ会議、電話、チャット、メールと続きますが、私たちは“このコミュニケーションには、この方法”と識別したうえで使い分けています。

文章だけで結論まで相手に明確に伝わるような内容であれば、圧倒的に早いチャットだけで済ませますし、反対に、相手に正確に伝わらない可能性があると判断した場合は、テレビ会議を選びます。要するにコンセンサスを取る必要があるかどうかの違いです。

TRIPORT社代表の画像です。

 

私自身、最初の頃は失敗ばかりしていましたが、上手くいかなければ、その理由を分析して、解決方法を考えるということを常に続けています。そういった経験から、「このケースでは、どのコミュニケーション方法が最適か」を判断できるようになりました。

 

また、直接仕事には関係ないこと、例えば、「お客様から〇〇について、嬉しいお礼メッセージをいただけました!」とか、「弊社の△△に関する取組が□□新聞に掲載されました!」といった情報などをチャットで共有できる仕組みも作っています。
そういった何気ない些細なやり取りでも、積極的に社内コミュニケーションを取れるようにすることで、社員間のコミュニケーションにおける心理的安全性を上げています。

弊社は心理的安全性をとても重要視していて、社員がCEOやCOOなどを自由に選んで1対1の面談ができる“CXO対話制度”という仕組みを用意したり、日頃から“この人は気軽な雰囲気で話をしても大丈夫な人だ”と感じてもらえるように社員と接するように心掛けています。
普段から関係性を作っておかなければ、社員たちがストレスを貯めていた場合になかなか吐き出すことができず、離職につながる可能性があります。

テレワークで実際の距離が離れているからこそ、心理的な距離を縮める工夫が大切です。

 

対面しているときには心を汲み取ることが何気なくできますが、相手が見えない環境になった瞬間にコミュニケーションは一気に難しくなります。だからこそ、テレワークでは社員に対して通常の何十倍もの配慮をしなければなりません。

テレワークの時代には“定性的な指標”や“思いの共有”が重要

――改めて、テレワークに長く取り組んできたからこそ生まれた効果を教えてください。

今回のように新型コロナウイルス感染症の拡大で、多くの企業の事業活動に制限や支障が出ている中でも、弊社では普段とまったく変わりなく業務を行えています。それによって社員たちが“この会社で良かった”と改めて感じてくれたようで、それが何よりも嬉しかったですね。

また、弊社のテレワークの取り組みが評価され、厚労省や経産省、東京都などから多くの賞をいただいていることが安心感につながり、採用面でも全国から優秀な人材が多数集まり、大きな効果を感じています。

 

――最後に、テレワークを成功に導くために必要な要素を教えていただけますか?

テレワークを成功に導くために必要な本質は、“相手への配慮”、これが全てだと思います。

 

組織を運営するうえでも、お客様と向き合ううえにおいても、相手の状況をシミュレートできるか、思考できるかどうかが重要です。そのうえで“その人のために、自分に何ができ、どういった対処方法があるのか”を考えていく必要があります。

社内では“社員たちがどういう点で困っているか”、“経営でどういう点で困っているか”、そして社外では“取引先がどのような状態で困っているか”を考えて、最適な解決策を導き出すという思考です。
その解決策というのは、ICT整備面だけではなくて、社内制度や運用方法なども含めて、あらゆる人の目線・立場になって考えるべきですね。

 

そして、理想を追求して、明確にゴール設定をすることも大切だと思います。それは経営者視点でもそうですし、社員側の視点も理解して、最適解を選ばなければいけません。

例えば、テレワーカーの残業をどのように処理するのかという点でも、経営リスク上、ダラダラとした残業を認めるわけにはいきませんが、社員側の状況をきちんと把握し、配慮できている経営者でなければ、適切な対処方法は分からないと思います。

そういう場合弊社では、まず社員側の意見を聞きますが、“感覚論での判断”は極限まで排除し、“合理性・客観性”を優先して実証的に考察し、経営としてもリスクヘッジできる仕組みを作ることで対応しています。

 

また、社員の状況を把握するために、全社員向けにアンケートを取ることもあります。困っていることがあったら言ってもらって、きちんと個別最適化を目指し続けるというのが、これまでの弊社のやり方でした。

しかし規模の大きな会社になると、それは難しい。
300人の会社なら300パターンの理想の働き方があるので、経営上の対応コストが膨れ上がってしまいます。ですから、現実的にはある程度の基準が必要で、それも経営視点と社員視点のバランスをとって仕組みを作るのがベターです。

 

社員側は問題が起きたとき、経営者にそれが黙認されていると感じることが一番のストレスになります。
なので、経営者が何かしらの問題を察知できたときは、優先順位を付けながらできる限り迅速に対処法を考え、例えば「〇〇の件については、100%希望を通すことはこういう理由があってできないけれど、ここまでは歩み寄れるけど、どうだろうか?」という話をします。

 

――結局、規模の大小を問わず、テレワークを成功に導くためには“相手に配慮する”ことが重要だということですね。

本当にその通りだと思います。

ICTやRPA、AIなどによる業務効率化を定量的な数字目標に向かって改善していくだけでは不十分で、定量、定性の両輪合わせで考えていく必要があると思っています。

今までは目標設定を明確にしたうえで、定量的に物事を分析し解決策を見出して仕組み化するなどの“業務効率化の徹底”が最優先とされていましたが、テレワーク時代になってくると、それらにプラスして、“定性的な指標”や“思いの共有”が何より重要視されていくかもしれませんね。

text: 伊藤秋廣

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