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INTERVIEW

“人は集中できると幸福を感じる” ─「集中」を研究し、追求するジンズの「実現したい働く環境」とは

2020.01.14

アイウエアブランド「JINS」を展開する株式会社ジンズは、現在「集中」をテーマに新たな事業展開を行っています。

2015年に発売した、目の動きをもとに自身の心や体の状態を測るウェアラブルメガネ「JINS MEME」(ジンズ・ミーム)を活用し、集中のメカニズムを可視化しているほか、そのデータをもとに「世界一集中できる場」を目指して会員制ワークスペース「Think Lab」(シンク・ラボ)を展開。

同社が「集中」に注目したのはなぜか、そして今後「JINS MEME」、「Think Lab」をどう展開させていく計画なのか。
株式会社Think Labのマーケティングを担当している石井建司さんに伺いました。

Think Lab(JINS)取材の1枚目の画像です。
Think Lab社の企業ロゴです。
株式会社Think Lab
事業本部 マーケティンググループ
石井 建司 氏

2014年株式会社ジンズに新卒入社。
店長、広報/PRチームを経て、株式会社Think Labのマーケティングや事業企画/運営を担当。

メガネをもっと進化させ、新たな可能性を生み出したい

――御社は以前から、PC用メガネの「JINS PC」や花粉対策用の「JINS 花粉CUT」など、視力矯正以外の付加価値を加えたメガネを多数展開し、新しいマーケットを切り拓いておられますが、ここにきてウェアラブルメガネ「JINS MEME」や、集中に特化したワークスペース「Think Lab」など、メガネの域を超えた事業展開を積極化されていますね。

なぜメガネ屋がこんなことまで?と言われることが多いのですが、背景としては大きく2つあります。

1つは国内のメガネ市場。当社は新しいニーズを生み出すために「視力矯正」以外に注目してきたわけですが、現在ありがたいことに国内の販売本数においてトップシェアとなり、約3人に1人の方に「JINS」のメガネを使っていただいています。しかし、これ以上メガネ業界でシェアを高めるのは難しく、早晩頭打ちになるのが見えていました。そこで、メガネを起点とした視力矯正以外の分野への展開も検討するようになったのです。

そしてもう1つの理由が、メガネをもっと進化させたいという思いです。そもそもメガネは約730年前にイタリアで発明されたと言われていますが、その時から機能も形状もほとんど変わっていません。これだけ長い間イノベーションが起こっていないのは、メガネと傘ぐらい。しかし、メガネにはもっと可能性があるはず。その可能性を追求して、人々の生活を豊かにしたいという思いを持ち続けてきました。

その中でPC用メガネや花粉症対策メガネなど、メガネという商品の価値を再開発してきましたが、2015年に発売した「JINS MEME」という商品が1つの大きな転機となり、新たに「集中」というテーマを追求するようになりました。

 

――センサーをもとに自身の心身の動きを測る「JINS MEME」は、御社としては新たな挑戦となった商品ですね。

Think Lab(JINS)取材の2枚目の画像です。

 

もともとは、代表の田中(代表取締役社長の田中仁氏)が、東北大学加齢医学研究所の川島隆太教授に「頭がよくなるメガネが作れないか」と相談に行ったのがきっかけです。「さすがにそれは難しいかもしれないが、パンツの次に身に着けている時間が長いメガネで目や体の動きを測ることができれば、心や体の状態がわかるのではないか」とアドバイスをいただいたことから、メガネにセンサーを組み込むことを発案し、開発しました。

鼻パッドと眉間の3点にセンサーを付け、つるの部分に基盤や電池を収めることで、メガネとしてのデザインは維持しながら、瞬き、視線の移動、姿勢の変化を測り、そのデータを専用アプリで見られるようにしました。活用用途はさまざまありますが、発売当初は運転中に眠くなったら覚醒度を検知してアラートを出してくれるというドライブアプリや、走るフォームをアドバイスしてくれるランニングアプリなどを前面に打ち出していました。しかし発売後、徐々にMEMEが持つ「集中度合いを計測できる機能」が注目を集めるようになったのです。

生産性を可視化するツールとして「MEME」が注目される

――何がきっかけで「集中」が注目されるようになったのですか?

発売した2015年は、ちょうど企業が「働き方改革」に着手し始めたころです。どの企業の人事も「労働時間を減らす一方で生産性を上げるなんて、不可能ではないか」と悩んでいました。社員の労働時間は可視化されているけれど、生産性は可視化できていないため、どの企業も何をどうすればいいかわからなかったのです。

そんな中、MEMEを発売したところ、ある企業の人事担当者から「MEMEを生産性を測るツールとして活用できないか」と言われました。「MEMEで集中度を計測し、生産性が低い時間を洗い出す。そして、その時間を削減すると同時に、集中している時間の要素を分析して再現性を上げていく。そうすれば『労働時間を減らして生産性を上げる』の両方が叶うのではないか」と。そこで、業務時間における集中についての本格的な実証に着手しました。

依頼を受けた企業の社員に協力してもらって実験を行いましたが、測ってみると面白いことに一人ひとり集中できる時間帯が違うことがわかりました。同じような仕事をしている人でも、朝は集中しているが午後になると徐々に低下していく人、逆に遅い時間になるほど上がっていく人など見事にバラバラだったのです。

Think Lab(JINS)取材の3枚目の画像です。

 

MEMEを使って社員のデータを分析すれば、社員ごとに労働時間のカスタマイズが可能になります。例えば、朝に集中する人はフレックスで朝早めの出社を促し、夕方に集中できる人は出勤時間を遅くするなど、社員それぞれに合った働き方を推奨できます。そして、生産性が上がったかどうかは、皆の集中度の合計値の変化を見ることで検証することができ、働き方改革をより一層推進することが可能になります。このサービスは、さまざまな企業で活用いただき、経済産業省などが主催する「HR-Solution Contest ―働き方改革×テクノロジー―」でグランプリを受賞することができました。

9割以上の人が「オフィスでは集中できない」

――人事担当者が抱える悩みから、「集中」がクローズアップされたのですね。ではそこから、“世界一集中できる場”がコンセプトのワークスペース「Think Lab」につながった背景を教えてください。

ビジネスパーソンの「集中」を実験、検証し続けてきましたが、ある日、「当の自分たちの集中を測れていない」ことに気づきました。そこで社内のメンバー数名で、働く場所を変えて実証してみたのです。

公園や喫茶店、ホテルのロビー、新幹線の車内など、いろいろなところで実証しましたが、集中できる場所は人によってバラバラでした。公園が集中できる人もいれば、老舗の喫茶店が一番いい数値だった人もいました。
しかし集中できない場所はほぼ一致していました。なんと9割以上の人の「最も集中できない場所」がオフィスだったんです。サンプル数を増やしても、結果は同じ。働く場所であるオフィスが「一番集中できない」、その事実に驚かされました。

これまでにMEMEを使った集中度の実証を何度も繰り返しているため、「どんな場所、どんな環境で人は集中できるのか」というノウハウが貯まっていました。これを洗い出し、さらに実験で深掘りすれば「集中できるワークスペース」が作り出せるのではないか、そう考えたのです。

ちょうど今のオフィスの1階下のフロアが空き、用途も決めきらぬまま賃貸契約を結んだ直後でした。会議用スペースとして使うか、それとも足湯を作るか、などという話も上がっていましたが、「ここに集中するためのワークスペースを作ればいいのではないか」と発案。実証を重ねて、現時点で最も集中できるスペース「Think Lab」を作り出しました。

緊張から開放へ…集中できるスペースの手本は「高野山」

――ここ「Think Lab」は独特の空間ですね。入り口からワークスペースの間には、アロマが焚かれた25メートルにも及ぶ長い「参道」があり、それを抜けると緑あふれるワークスペース。かすかに聞こえる鳥のさえずりが、リラックスさせてくれます。

Think Lab(JINS)取材の4枚目の画像です。

 

「Think Lab」の監修者である予防医学研究者の石川善樹さんが、「集中できる場所のヒントは神社仏閣にある」と教えてくれたのです。

石川さんによると、日本で初めて「集中」に悩んだのは空海だとか。中国で身につけた知識を人々に伝えることに追われて、一人で集中して考える時間がなくなってしまった。そこで都のある京都から敢えて少し離れた和歌山県の高野山に寺社を開山したと言われています。そこには鳥居があり、参道があり、手水(ちょうず)があり、そして本堂がある。本堂に向かうまでに人が集中できる構造が整っているのです。石川さんから、それを手本にすればいいのではないかとアドバイスをいただきました。

そこで「Think Lab」では、緊張からの解放を演出するために25メートルの参道を設けました。参道を抜けるとワークスペースが一気に広がり、「緊張からのリラックス」で集中度がぐんと上がるという構造です。

また、五感への刺激も意識しています。参道ではアロマで嗅覚を刺激し、「今から集中するんだ」と脳に働きかけます。緑が多いのは、視野の10~15%を緑が占めるとリラックスして集中を促進するというデータがあるためです。そして聴覚を刺激するため、上からは鳥の鳴き声、下からは川のせせらぎ音、つまりパワースポットにいるかのような音を再現しています。ハイレゾ技術により可聴域を超えた音までも再現して、パワースポットの気持ちよさ、リラックス効果を実現しています。

 

――完成までには、試行錯誤があったのでは?

MEMEによるデータはありましたが、音や緑、光の度合いなど、いろいろな要素をどう組み合わせるのがベストなのか、少しずつ変えて半年近く実験し続けました。当社のオフィスフロアは白で統一されていて、オープンな雰囲気である一方で「コミュニケーションは取りやすいが集中しづらい」との声が多かったので、社員は皆進んで実験に協力してくれましたね(笑)。

現時点ではこれがベストとは思っていますが、まだ完成形ではないとも思っています。より集中できる要素はないか、もっといい組み合わせはないか、検証しブラッシュアップし続けることが大切。だからこそ「Think Lab」(Lab=研究所)というネーミングにしています。

Think Lab(JINS)取材の5枚目の画像です。

企業内でも「集中スペース」を展開し、イノベーションを後押し

――最近では、さまざまな企業内にも展開していると伺っています。

自社スペース内に作った「Think Lab」は、自社の社員が使う場所としてオープンしました。ただ、人事担当者を中心に多くの企業から見学依頼があり、ご覧になった方は口々に「自社の社内にもこのような集中スペースを作りたいが、どうやって作ればいいかわからない」とおっしゃいます。「ならば我々が作りましょう」と名乗り出た格好です。

イノベーションを起こすには、社内コミュニケーションを積極化することと、一人で深く考えることの両方が必要とされています。しかし、現在のオフィスの設計はコミュニケーション重視で、人に話しかけやすく、接点が持ちやすいものが主流です。イノベーションの確度を上げるためにも、一人で集中できる空間を確保することが急務となっています。

依頼をいただいた企業内に集中スペースを作る際は、デザインやレイアウト、機能はその企業のニーズや広さによって変えていますが、光や音、緑などの要素はここ「Think Lab」と同じです。一人用のブースを用意して、思考や作業に没入できる環境を整えています。

なお、調査の一環で経済産業省にも集中スペースを展開していますが、「誰にも話しかけられることなく、業務に没頭できるのが嬉しい」「かすかな音が流れていて、無音よりも集中できた」「仕事への没入感が得られた」など、多くの嬉しい声をいただいています。

「没入できる空間」の追求により一段の生産性向上を実現したい

――現在は飯田橋の本社内で展開している「Think Lab」ですが、今後、さらなる展開を検討されていますか?

Think Lab(JINS)取材の6枚目の画像です。

 

2020年2月に東京・汐留に「Think Lab汐留」をオープンする予定で、今後もニーズに合わせて展開していきたいと考えています。

全国のシェアオフィスと契約している企業の調査で、最も多く使われているのは本社ビルの目の前にあるシェアオフィスという結果が出ています。「一人で集中するために、近くのシェアオフィスに行く」というニーズがあるようです。
汐留界隈には特に知的労働を必要とするクリエイティブワーカーなど、さまざまな大手企業が本社を構えています。集中できる場所がないと悩んでいる人に、ぜひ「近場の集中スペース」として気軽に使っていただきたいと思っています。

会員制ワークスペース「Think Lab」を展開しつつ、各企業内にも集中スペースを展開する。この両方を手掛けているのが当社の強みです。社内の集中スペースを活用するだけでなく、リモートワークなどの際に「Think Lab」という外でも集中できる場を提供することで、イノベーションの後押しをしたいと考えています。

 

――「Think Lab」や「JINS MEME」は、働き方改革推進の一助を担っていると思いますが、今後はどんな方法で「働き方」にアプローチしていこうと考えておられますか?

「目は口ほどに物を言う」ということわざのように、目にはいろいろな可能性があります。
そしてメガネは、下着の次に身に着けている時間が長いプロダクト。しかも、下着は取り替えますが、メガネは取り替えることがなくずっと身に着け続けるもの。一人ひとりに寄り添うことができる、凄いプロダクトだと思っています。

アメリカの心理学者ミハイ・チクセントミハイ(Mihaly Csikszentmihalyi)の「フロー理論」によると、人は「集中」することができれば、意義がなくても、快楽を得られなくても、幸福を感じると言われています。「Think Lab」で仕事に没入することができれば、多くのビジネスパーソンに幸せを感じていただくことが可能になるはずです。

今後も、集中できるだけでなく「幸せを感じられる場所」を追求することで、一段の生産性向上やイノベーションの創出、そして働く個人の高揚感ややりがいの醸成に貢献していきたいと考えています。

text: 伊藤理子
photo: 石原敦志

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