『えんとつ町のプペル』の空間デザイナーが求める創造性を刺激する“小さなストレス”と“雑多な広がり” | akeruto_ はたらく未来のカギになる

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INTERVIEW

『えんとつ町のプペル』の空間デザイナーが求める創造性を刺激する“小さなストレス”と“雑多な広がり”

2020.12.23

絵本の世界累計発行部数が60万部(2020年12月現在)を突破し、2020年12月25日にはアニメ映画として全国公開される『えんとつ町のプペル』

作品の良さだけでなく、絵本の著者で、映画では脚本・原作・製作総指揮を執る西野亮廣氏の巧みなプロモーション手法も話題を集めています。

 

今回は、『えんとつ町のプペル』の世界観を、イベントスペースや店舗などのリアル空間で再現している建築家で空間デザイナーの只石快歩氏に、非日常を感じさせる空間や創造性を発揮しやすいワークスペースづくりについてお聞きしました。

只石さん取材のメインビジュアルです。

艸の枕のロゴです。
空間デザイナー/建築家
一級建築士事務所 艸の枕代表
只石 快歩 氏

1975年 東京都日の出町生まれ。
多摩美術大学美術学部建築科卒業。
大学卒業後、建築を取り巻く環境/ランドスケープデザインの基礎を庭園作家 枡野俊明氏に学ぶ。
中村高淑建築設計事務所において個人住宅の設計に携わり、2005年一級建築士事務所艸の枕を設立。
2015年アートに特化したハッカソン「3331α ART HACK DAY」にて製作した『運命的アクシデント』がアート部門最優秀賞を受賞。
現在は、お笑い芸人で絵本作家の西野亮廣氏に関連するさまざまな空間の設計・デザインを中心に活動。2019年にはエッフェル塔において日本人初となる西野氏の展覧会「にしのあきひろ 光る絵本展inエッフェル塔」の空間設計を行った。

合理性より、造形的な面白さというアプローチ

――まず只石さんのご経歴から教えていただけますか。

中学や高校の頃は絵を描いたり物をつくることに興味があり、イラストレーターとか舞台演出家、テレビのプロデューサーなどになりたいと思っていました。

建築と美大が結びつく原体験は、中学生の頃です。“今の家を建て直すとしたら”みたいな図面を、毎日のように方眼紙に描いていたんです。ほとんど遊びで、パズルゲームのような感覚でしたね。

それを見ていた父が覚えていたのでしょう。進学の際に、「イラストレーターでは不安定だろうから、建築のデザインはどうだ」とアドバイスをくれました。それが美大の建築に進む直接的なきっかけになりました。
製図用の鉛筆やペンの画像です。

 

――工学部の建築科ではなく、美大の建築科に進まれたわけですね。工学的な設計をする人とアート的な設計をする人の、物の考え方や設計アプローチの違いはありますか。

丸の内周辺のビルは、一世代前はガラスの建物が多かったと思いますが、最近は外壁面に少し凹凸をつけたような縦ストライプのビルが増えています。これは“造形的に美しい”から縦ストライプにしているわけではなく、環境配慮を目的とした法律が20年ぐらい前にできて、外壁に日陰を作ることで熱を建物の中に入れないようにしているのです。

日陰を作れば冷暖房の効率が高まり、ビルオーナーにとって大きな経済的価値も生まれます。“合理的な建物を目指した結果、このようなデザインになった”というのが工学系のアプローチです。

 

それに対して、“縦のストライプが格好いいからやる”とか“経済的合理性よりも、造形的な面白さが価値を生むからやる”というのがデザイン系のアプローチになります。

現実と非現実を混ぜ合わせることで生まれる没入感

――今の空間プロデュースに進まれた経緯を教えていただけますか。

30歳で独立し、10年近く住宅を中心に手掛けましたが、僕の興味は、劇場や美術館、駅や図書館といった“みんなが集まる場所”にありました。

そこで考えたわけです。“この先、お客さんに恵まれ、提案したものが次々と実現し大きな住宅も手掛けられるようになり、50~60歳になった時に建築の立派な賞をもらったとして、そこにワクワクした気持ちがあるかな”と。そして、このまま住宅をやり続けていても、自分が本当にやりたい劇場や美術館の仕事は来ないだろうと。

只石さんの説明画像です。

 

そこで、一旦建築というジャンルの壁を取り払って「空間」という領域に広げてみることにしました。例えば、イベント空間のようなイメージです。

 

――空間デザインの仕事はどのように探したのでしょうか。

ちょうどSNSの活用が世間一般に浸透し始めた頃で、タイムライン上には「こんなイベントやります」とか「会場のデザインできる人いませんか?」みたいな募集が結構あって、自分から積極的にアプローチするようになりました。

 

その際に参加したイベントのひとつがアメリカの講演イベント「TED」※の日本版で、子ども向けの「TEDxKids@Chiyoda」でした。そして、そこにスピーカーとして出演した西野亮廣さんと出会い、『えんとつ町のプペル』関連の仕事が現在まで続いています。

 

※毎年学術・エンターテインメント・デザインなどの分野で活躍する人がプレゼンテーションを行う世界的講演イベント

 

――只石さんが手掛けられる空間デザインとはどのようなものですか。

“フィクションを現実空間に落とし込む”という仕事です。『えんとつ町のプペル』であれば、世界観を再現したスナックや宿泊施設、音楽フェスの会場などをデザインしています。

只石さんの空間デザイン例です。

画像提供:只石 快歩

 

ディズニーランドもフィクションを高いレベルで現実空間に落とし込んでいて僕も大好きですが、ディズニーランドの場合は、外界を遮断して、壁の中にファンタジーの世界を作っています。来場者は壁の中に入って世界観を楽しみますが、シンデレラ城の前に立っても、展示されたシンデレラ城を見られますが、自身がシンデレラのお話の一部にはなれません。

 

それに対し、壁の外の現実空間にファンタジーをディープに混ぜれば混ぜるほど、その場に立った人はファンタジーを自分の世界の一部のように感じられ、体感度が上がります。このようにファンタジーを「日常に溶け込ませる」ことが面白いと思っています。

小さなストレスを用意することで生まれるワクワク

――住宅でもイベント空間でも、只石さんが空間づくりをするうえで一番大切にしていることは何でしょうか。

老若男女問わず、シンプルにワクワクする空間をつくりたいというのはありますね。そのためには建築的にはチープだったり、俗っぽい感じになったとしても、それで「ワッ」と感動させられるのであれば、そちらを選びます。

 

その意識は、西野さんとお仕事をするきっかけにもなった2015年の「おとぎ町ビエンナーレ」という個展で生まれました。絵本の原画展でしたが、来場者にファンタジーの世界を体験してもらうためには、日常から非日常に入ってもらわないといけません。

では、どこで日常から非日常にスイッチさせていくか。そのために、まず“非日常とはどういうことか”を突き詰めて考えました。

 

身近な非日常とは、海外旅行ではないでしょうか。僕たちが海外旅行中に体験することは、実は日本でやってることと大して変わりません。でも、海外だと凄く刺激を受けてワクワク・ドキドキしますよね。この大きな違いは何からくるのか。

例えば、切符を買う時、分からないなりに何とかして切符が出てくると、「あ、買えた!」みたいな小さな感動が生まれる。僕はそこが非日常を感じる瞬間だと思います。「いつもと違う」、「スムーズにいかない」という小さなストレスが非日常を生み出す。

そんなちょっとしたストレスに満ちた空間を作れば、それは非日常でありファンタジーな空間になり得ると考えました。

只石さん取材の画像(横顔)です。

 

そこで、「おとぎ町ビエンナーレ」では、絵を見るイベントなのに近づかないと見えづらい程度に会場を薄暗くしたんです。そして、少しかがまないと見えないなど、絵を展示する高さをバラバラにしました。またパーテーションはりんご箱を重ねたものを使いあえて隙間を作ることで、パーテーションの向こうを人が通る気配を感じたりと、小さなストレス=ドキドキを作りました。

 

でも、そういった空間構造を建築デザインでガチッと作ってしまうと恩着せがましくなり、堅苦しくもなって敷居を高く感じさせてしまうんです。多くの美術館で感じるアレです。

なので、りんご箱を組んで壁にしたり、三角フラッグをかけたり、西野さんの私物のおもちゃを並べたり、音楽をかけたりと、小物や道具を使って親しみやすさを作り、非日常の世界に呼び込む工夫をしました。

 

――「建築デザインでガチッと作ると恩着せがましくなる」というご指摘は興味深いです。“ハードではなく、ソフトで工夫した方が良い部分もある”ということですね。

そうです。ちなみに、僕たちは設計だけでなく、ちょっとしたイベント用の美術品や小物なども自分で製作します。

えんとつ町のプペルの世界観に合うランプや時計から、ロゴ、コーヒーのラベルデザイン、コーヒーを飲む時に似合う新聞のデザインも。

照明器具を選ぶ時は一度このオフィスで吊るして色味を見たり、ワット数の調整をしたりしています。いかに体感度を上げてお客さんを楽しませるかを考えて、設計やものづくりをしています。
制作物の画像です。

 

――“建築”というジャンルの壁を取り払い、ハードだけでなくソフトも組み合わせる“空間デザイン”の世界にたどり着かれたわけですね。

現在はイベントの空間デザインの仕事を中心にしていますが、これをずっと続けたいわけではなく、あくまでも僕は建築がやりたいと考えています。むしろ、建築をやるために今の仕事をしているという感じです。

 

極端な話、僕が本当に設計したい劇場や美術館、駅なんて、生涯にひとつできれば良いと考えています。そのひとつを最高の建築にしたいのです。

今の僕は、その劇場や美術館を作るために、劇場内で催されるようなイベントの空間デザインを行っていますが、このトライアンドエラーは絶対に後々生きてくると考えています。

実際にキッチンに立たない人は良いキッチンの設計はできないし、マンションにしか住んだことのない人が良い一軒家を設計できるかというと、難しいのではないか。そういった考えを持って、いま経験すべきことにチャレンジしています。

固定概念を打破し、新しい発想を生む空間

――ワークスペースを考えるメディアとしてお聞きしたいのですが、只石さんの考える「人が創造性を発揮できる空間」とはどういうものでしょうか。

製図の画像です。

 

僕の感覚になりますが、アイデアや発想の似た10人が集まってもそんなにクリエイティブな仕事にならないと思います。なので、大きなものを生み出すなら、アイデアや発想の異なる10人が集まった方が良い。それが前提としてあります。

 

そして、空間としては10人にとって広いと感じるくらいのスペースが良いです。声が届くくらいの距離で、それぞれが自分の作業をしている感じでしょうか。

この事務所はスタッフ3人ですが、1人あたりのスペースは15平米、ワンルームぐらいあります。そうすると、パーテーションもなく全体はつながっているけど、他者を気にせずそれぞれが集中して仕事をすることができます。

 

――個のスペースを確保するために、パーテーションで区切ることとの違いは何だと思いますか。

区切ると、インプットが固定化されてしまうのではないかと思います。僕なら僕、AさんならAさん、BさんならBさん、その人のパーソナルに特化したものしか入らなくなる。

でも空間が雑多に広がっていると、自分の趣味でもないものが自分の領域の端っこや視界に入ってきます。人はそういう中から刺激を受けたり、意外な組み合わせによる新しい発想が生まれるのではないでしょうか。インプットさせる素材が色々あった方が、心がくすぐられると思います。

 

――セレンディピティ(偶然の出会いや予想外の発見)につながるお話ですね。

小学校の時って、色々な友達がいますよね。ガンプラを持っている子や漫画をいっぱい持っている子とか。そういった多様な友人関係の中から、子どもの興味は広がっていきます。

只石さんの最後の画像です。

 

だけど、大人になると交友がだんだん絞られてきます。僕であれば、建築つながりの人としか付き合わなくなったり。

そうすると、専門性は高まるけど、情報量はぐっと減り、思考が固定化してしまう。そして決めつけが多くなるため、デザインの意見を交わす際などに「常識的にこれとこれは違うから」、「合わないから」などと言ったりする。

そういう点では、自分の趣味外、専門外のものがたまに視界に入る空間の雑多な広がりというのは、固定概念の打破にもなりますね。

 

――只石さんのお話にはこれからのワークスペースのづくりのヒントが含まれている気がします。

空間には、刺激や新しい発想につながる“雑多な広がり”が大切ですし、ワクワクを生む“小さなストレス”も大切です。

真っ白で、明かりも煌々とあり、疲れない最新式の椅子が用意されているような空間で「さあ、どうぞ」と言われても、僕はデザインができる気がしません(笑)

創造・クリエイトをするなら、まず自分が、ワクワク・ドキドキする空間にいないといけないと思いますね。

text: 伊藤秋廣
photo: 石原敦志

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