"目的意識の一致が瞬発力を生む"──パーソルキャリアが5千人のテレワーク環境を2週間で構築できた理由 | akeruto_ はたらく未来のカギになる

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INTERVIEW

“目的意識の一致が瞬発力を生む”──パーソルキャリアが5千人のテレワーク環境を2週間で構築できた理由

2020.07.08

パーソルキャリア社取材のメインビジュアルです。

 

ウィズコロナ/アフターコロナ時代の働き方を考えるための全3回のインタビューシリーズ企画「コロナ後のはたらく」

第1回はこちら

 

2回目となる今回は、新型コロナウイルス感染症の拡大が続いていた中、わずか2週間で5,000人規模のテレワーク環境を構築したパーソルキャリア株式会社を取り上げます。

テレワーク環境を構築する上で発生する大企業だからこその悩みや、それを乗り越えるためのポイントについて、同社テクノロジー企画部ゼネラルマネジャーの廣 泰介氏に伺いました。

パーソルキャリア社のロゴです。
パーソルキャリア株式会社
テクノロジー本部 BITA統括部 テクノロジー企画部 ゼネラルマネジャー
廣 泰介氏

2006年にパーソルキャリア(旧:インテリジェンス)に新卒入社。キャリアアドバイザー、営業企画部門を経て、2012年よりシステム(BITA)部門へ配属。
2015年にマネジャー着任。2020年より現任。

ITやテクノロジーの導入に関する環境を整える役割

――まずは、御社内における廣さんの役割からお聞かせいただけますか。

パーソルキャリアは、-人々に「はたらく」を自分のものにする力を- をミッションとし、転職サービス「doda」やハイクラス人材のキャリア戦略プラットフォーム「iX」をはじめとした人材紹介、求人広告、新卒採用支援などのサービスを提供しています。私は、パーソルキャリア全社に向けたITやテクノロジーの推進と、制度を含めた環境整備を担っています。

 

また、パーソルホールディングスの中核会社でもあるので、ホールディングスの方針に従い、新たなソリューションを導入する際の窓口になることもあります。そういう意味では、ホールディングスが決めたことを、自分たちの業務や事業の特性、働き方などを踏まえて、正しく社内に展開していくということも重要な役割のひとつと認識しています。

 

とはいえ、弊社の場合、私がすべてのITを統括しているわけではありません。人材紹介事業や求人広告事業など各事業部はそれぞれ30~50人ほどのIT組織を抱えており、私は各事業部のIT部署のリーダーとつながっているという連携スタイルを取っています。

例えば、ツールを展開する際には“各事業部にどのように導入するか”という旗振りは私が行いますが、“各事業部でどう使うか”というのは、それぞれのIT部署のメンバー達に推進してもらっています。

 

しかし、今回のテレワーク環境の整備に関して言えば、ここまでの規模で全社を相手にしたのは初めての経験となりました。

わずか2週間で大規模なVPNを用意できた要因

――では早速、そのテレワーク環境の整備についてご説明いただけますか。

まず、2月末あたりから新型コロナウイルス感染症の流行が言われ始め、「もしかしたら日本も海外のように外出制限されるかもしれない…」という話が持ち上がったころに、弊社の経営陣からテレワークの環境、具体的には全社的なVPNの環境を「2週間で、可能なら1週間で作ってほしい」と言われました。

 

その時点で弊社にVPN環境はありましたが、自然災害で出社困難などの非常時に備えたもので、とても5,000人を超える人数で利用する環境にはないものでした。つまり、ゼロからVPN環境を構築する必要があったんです。

それ以前からも「VPNの環境を拡張して欲しい」という要望は、事業部の現場からは挙がっていました。ただ、弊社社員の大半を占める人材紹介事業は、職業安定法の規定に伴い原則としてオフィスでの業務が中心になることからも、総合的に判断し着手には至っていませんでした。しかし今回はコロナ禍ということで、緊急かつ“社員の健康や生命に関わる”という観点から、適切に許可を得られたため、全社員が安全に働くためのVPN環境構築を進めることになりました。

 

それでも2週間という期間での構築は、だいぶ難易度が高かったです(笑)。通常のプロジェクトであれば、少なくとも3か月は要するレベルで、どれだけ急いでも1か月は必要です。

パーソルキャリア社廣さんの1枚目の画像です。

(安全性が確保された空間でオンライン取材・撮影に応じていただきました)

 

一般的なITのプロジェクトでは、まず要件定義をしてから設計、構築、テスト、リリースと段階的に進めていくと思いますが、今回に限っては要件定義にほとんど時間をかけませんでした。社員が5,000人いて、有期契約社員や派遣など雇用形態もバラバラだったりするので、本来だったら誰にどこまでの権限を持ってもらうかを綿密に決める必要があり、要件の定義や利害の調整に非常に時間がかかります。

しかし今回は、適切な権限をつけることの裁量をもらえていたことから、大規模なVPNの環境構築に向けて、皆で目線を合わせてすぐに進むことができました。

 

――ここまでスムーズに進められたのは、どのようなポイントがあったのでしょうか?

私自身、社歴が長いので、情報セキュリティや総務、人事、経営企画などと調整をするなら「あの人だ」と分かりますし、各事業部の業務内容や業務スタイル、どれくらいの個人情報を触っているかということも大体分かっているので、「この話を調整しなければ」となったときの不要なリードタイムがほとんどなく、一人称で完結しやすかったというのもあると思います。「こういうことですよね」という前後の文脈を理解することから始めていたら、とても2週間では終わらなかったと思います。

 

VPNの設計・構築は、AWS(Amazon Web Services)推進という専門部隊が担当し、ちょうど「AWS Client VPN」というサービスが直前に発表されたばかりで、これを使ったVPNの構築に取り組むことにしました。私が全体の統括をして、インフラ基盤統括という別の部署が実際に基盤の構築を行いました。

ホールディングスのIT部門の協力も仰ぎながら、総力をあげて取り組んだ結果、環境そのものは1週間ほどで完成しました。これはAWS推進グループに所属するエンジニアたちの優れた力がなければ決して実現できなかったことだと思います。

 

同時に私は人事と連携して申請フローを作り、社員自身が自宅で開通作業ができるような手順を整理し、さらに「つながらない」「つなげられない」という問合せが出てくることを想定し、それに対するQAやサポートのフローを10日間ほどで作り上げました。

これまで営業、マーケティング、企画部門など様々な部署を経験していて、“どれくらいのトーンで、どれくらいの問合せがくるか?”というのはなんとなく分かっていたので、それを踏まえた事前準備ができたのかなと思っています。結果的には「つながらなくて使えない」という人は局所的にはいたかもしれませんが、多くの社員がスムーズにテレワークで業務を開始することができました。

 

なお、環境構築後のテストは、各事業部に紐づいているIT組織に協力してもらいました。環境ができあがったのは夕方でしたが、「次の日の夕方には使用できるようにしたいから、今日中につながるかどうかの確認をして欲しい」とお願いしたら、皆が協力してくれて…。翌日昼過ぎには、もう使える状態になっていました。

 

――すごいスピード感ですね。大手企業にありがちな、“調整に手間取り、なかなか前に進まない…”ということもなく、部門・部署を越えた協力姿勢が素晴らしいです。

「パーソルキャリアだから」と言いたいところですが(笑)、どの会社でも目的意識が共有できればスピード感は生まれると思っています。有事だからこそ、“何をしなければならないか?”という認識が皆の中で寸分の狂いなく一致している状態になりました。なので、コミュニケーションが煩雑にならず、「そもそもなぜやるのか?」、「工数が足りない」などと言いだす人もいませんでした。

パーソルキャリア社取材の2枚目の画像です。

 

障害対応のときもそうですが、とにかく“今やらなければならないこと”に向けて目線がずれていなければ、これだけの瞬発力が出るということだと思います。会社の規模が大きく対応しなければならない人数は多いですが、この“目線がずれなかったこと”は、パーソルキャリアの文化というか、共有している素地がそもそも一緒だったことに起因するのではないでしょうか。

“アフターコロナの新しい働き方”を考えるきっかけに

――このプロジェクトの完了により、どのような変化が生じたのでしょうか。

私たちは転職を希望する方をサポートする会社なので、第一に転職活動をしている方々に対して、少なくとも我々が「環境がないから」「接続できないから」という理由で事業やお客様の転職活動を止めることはあってはなりません。
一方で、もちろん社員の安全を守ることも重要です。

今回のVPN開通によって、“社員の安全を守りながら、お客様の転職活動は止めない”を実現することができました。有事でも変わらずにサービス提供を続けられたという意義は大きいと思います。

 

また個人的には、普段は、“制約条件の中で、どうITで解決するか?”がミッションになりがちですが、今回をきっかけに、こんなにもスピーディに、かつ会社や事業にいつも以上にインパクトを与えられるものなのだなと感じました。

 

――この経験は、今後どのように活かされるのでしょうか。

私がIT担当として参画しているコロナ危機対策本部では、すでに「アフターコロナの世界における新しい働き方を模索するプロジェクトに変わった方が良いのでは?」という議論が始まっています。今後は恐らく、弊社だけではなく、日本全体で週5日のフル出社ではなく、在宅勤務が増えていくのではないでしょうか。このコロナ危機という事変によって、世界の認識が大きく変わったと感じています。

 

「テレワークはITの技術によって可能になった」という内容の記事をよく見ますが、テレワークはITの進歩だけでできることではなく、人事的な制度の見直しもそうですし、世の中的な情報セキュリティの不安が和らがない限り、進んでいかないものです。結局、様々な領域が変化してはじめて実現できるものだと思いました。

 

――今の時点で“アフターコロナの新しい働き方”について考えていることを教えてください。

アフターコロナの働き方については、世の中の人も決めあぐねている状況だと思っています。

パーソルキャリアの事業体やビジネスモデルを考えたときに、他社のやり方が自分たちにもフィットするとは考えにくい。パーソルキャリアは人材紹介事業や求人広告事業、さらに新たに開始する事業もあって、複雑に事業が絡み合う5,000人規模の会社です。その中で、一番良い選択肢を考える必要があるので、様々なことを模索しながら、トライ&エラーを繰り返して進めていくのが、新しい働き方を考える第一歩なのだと考えています。

そういった意味で、今回のプロジェクトは、私たちにとって、時代や世の中の変化に柔軟に対応できることの証というか、そういった姿勢を示すことができた大きな一歩になったのでないかと自負しています。

text: 伊藤秋廣
photo: 石原敦志

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