"アートには、感じさせる余白がある"――OVER ALLsがオフィスアートで目指す「働く」の未来 | akeruto_ はたらく未来のカギになる

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INTERVIEW

“アートには、感じさせる余白がある”――OVER ALLsがオフィスアートで目指す「働く」の未来

2020.01.27

「アートで日本を楽しく」をテーマに、企業のオフィスをはじめ、店舗や駅に壁画を描くアート集団・株式会社OVER ALLs。

オフィスでは企業理念やビジョン、目標などを、店舗ではショップコンセプトやブランドストーリーをアート化して、壁画に仕上げています。設立4年目のベンチャーながら、「オフィスアートによって企業理念やビジョンの浸透が図れる」「会社の課題解決につながる」など企業からの引き合いが絶えず、現在急成長中です。

なぜ、オフィスアートという分野に注目したのか、そしてオフィスアートで目指す「働く」の未来とは?
代表取締役社長の赤澤岳人氏に伺いました。

オーバーオールズ取材の1枚目の画像です。

オーバーオールズ社のロゴです。
株式会社OVER ALLs
代表取締役社長
赤澤 岳人 氏

大手人材派遣会社の営業職を経験後、事業承継をテーマとした社内ベンチャーを設立。退職後の2016年9月、アーティストの山本勇気氏とともに株式会社OVER ALLsを設立。主に企画・プロデュースを担当。

クライアント一人ひとりと向き合い、要望を深掘りする

――赤澤社長は、以前は人材派遣会社の営業担当であり、アートとは無縁だったと伺っています。そんな社長が「オフィスアート」という分野に注目したのは、どういうきっかけからですか?

実は起業のきっかけは、オフィスアートの将来性に気づいたからではありません。簡単に言えば友人である現副社長の山本が困っていたからです。
山本とは、共通の知り合いのイベントで出会いました。当時僕は会社員で、山本は建築パース(建物の完成予想図)の画家。そのイベントで彼が初めてライブペイントを行うことになり、僕がその司会を頼まれたんです。

その後、彼がアート活動を進めるなかで色んな誘いがあったらしいのですが、宣伝になるからと無料で絵を描かされたり、条件交渉がうまくいかなかったりと苦労が続き、彼から僕に「自分の活動を手伝ってほしい」と声がかかったんです。

 

――当時はまだ、会社にお勤めだったんですよね?

人材派遣会社では、人材派遣営業を経て営業リーダーを任されるようになりました。そして社内のビジネスコンテストで2回最終選考に残り、そのうち1つの企画が採用されて、事業承継の社内ベンチャー設立も実現しました。ただ、社内ベンチャーではビジネスを軌道に乗せるべく努力したのですが、事業テーマとしては少し早すぎたようで、頓挫してしまいました。

山本から「手伝ってほしい」と言われたのは、ちょうど「自分が企画したビジネスを畳んだからには、けじめをつけて会社も退職しよう」と考えていたとき。僕自身、これから何をしよう?と考えていたところだったので、困っている山本をサポートすべく2人でアートユニットを立ち上げ、その後起業しました。

オーバーオールズ取材の2枚目の画像です。

 

――初めは、どんなビジネスを手掛けていたのですか?

最初は「肖像画」です。企業のトップや店舗のオーナーなどを対象に、当時1枚につき4万円をいただいて肖像画を仕立てていました。4万円の根拠は「胡蝶蘭」。例えば、会社が新しいオフィスに移転したり、新しい店舗がオープンしたりすると、お祝いの胡蝶蘭がずらっと並びますが、扱いが大変なうえ枯れたあとの処分もあるので「スタッフの負担になるケースもある」と聞きます。それならば、同じような値段のプレゼントとして「社長の肖像画」を打ち出したらどうか?ということで始めました。そうしたら、プレゼント用だけでなく、「自分用に描いてほしい」というオーダーが集まるようになったんです。

当時は生活するのに必死ですから、お客様一人ひとりと真剣に向き合い、信頼していただくことに注力しました。なぜ肖像画を描いてもらおうと思ったのか、今どういう状況にあるのか、今後の目標は…などと深掘りしながら何度もヒアリングして、イメージを固めていくんです。そうすると、思いもよらない情報がいろいろと出てくる。

例えば、会社を経営していたら資金を持ち逃げされ、途方に暮れていたけれど右腕が「ついていく」と言ってくれたのがちょうど1年前。ようやくシェアオフィスを脱出し新しいオフィスを構えることができたので、そこに飾る絵がほしい…という社長さんがいたり。喫茶店を経営していた母ががんを患ったので、元気づけるために店内にいる母を描いてほしい…という娘さんがいたり。
そうやって目の前のお客様一人ひとりに真剣に向き合い、想いに応え続けていたら、ある大手通信会社系のシステムインテグレーターから声がかかったんです。

企業が気づかなかった課題を掘り起こし、アートでの解決を目指す

――それが初のオフィスアートということですね。どんなオーダーだったのですか?

自社の休憩室の壁に、絵を描いてほしいというものでした。その企業からオーダーを受けたインテリアコーディネーターが僕の知り合いで、「ぜひOVER ALLsに」と声をかけてくれたんです。

普通ならばどんなデザインにしたいのかをヒアリングするのでしょうが、僕らは今までやってきた通りに「なぜオフィスに絵を取り入れたいんですか?」「どんな効果を期待していますか?」「いま、会社が抱えている悩みは?」などとどんどん掘り下げていきました。

はじめは単に「おしゃれな休憩室にしたい」ぐらいに思われていたようでしたが、深掘りしていった結果、「営業とSEのタイプが大きく異なり、うまく交流が図れていない」という課題をつかみ、文化の違う両者を融合させるようなアートを仕上げることになりました。

この会社が通信会社系だったので、描いたのは電話を発明したグラハム・ベル(Graham Bell)です。彼が初めて電話を通じて話した言葉「ワトソン君、ちょっと来てくれ」を英語で書き添えました。こういった豆知識は、社内の年長者は知っているけれど、若手はまず知らない。営業とSEだけでなく、ベテランと若手の間でも話が盛り上がるツールになり得るのではないか…と考えました。

オーバーオールズ取材の3枚目の画像です。

画像提供:OVER ALLs

 

――初のオフィスアートの反響はいかがでしたか?

アートの提案を一緒にしてくれた設計デザイン会社経由で、「先方がすごく感動してくださっている」と聞きました。コンセプトがしっかりしていて“そこに存在する意味”もある。非常に素晴らしい、と。こんなに喜んでいただけるなんて…と嬉しく思うとともに、“アートにその会社ならではの物語を加える大切さ”に気付かされました。そして、目の前のことに一生懸命取り組み、誰よりも当事者意識をもって考え抜くことが重要なのだ、とも。お客様からビジネスを教えていただいた格好です。

それから「オフィスアート」を前面に打ち出すようになり、口コミで評判が広がって、さまざまな企業からお声がけいただけるようになりました。

企業にとって何がベストか、を考え抜く

――最近では企業理念やビジョンの浸透を目的に、オフィスアートを依頼する企業が増えているそうですが、要望に応える際に大切にしていることはありますか?

お客さんにとって何がベストなのか?を考え抜くことにこだわっています。
「できません」「それは致しかねます」とは言わず、常に「致す!」が僕らのスタンスです。自分たちの中に変なこだわりは持たず、お客さんにとってのベストを追い求めています。

ある急成長中のITベンチャーは先ごろ、ミッションとビジョンを刷新し、その浸透に課題感を覚えて我々に声をかけてくださいました。ビジョンは8つあり、たまたま会議室も8部屋あったので、1部屋ごとに1つのビジョンをテーマに壁画を描き、それらを総括するミッションは会社のエントランスに制作するという方針に決まりました。

制作にあたり、まず延べ50名ほどの社員の方と10回以上のミーティングを行いました。ミッションとビジョンの浸透が目的なので、できるだけ多くの社員に絵作りに参加してもらう必要があると考えたためです。

 

――50人とは、すごいですね!ただ、経営者ならともかく、社員からは意見が出にくかったりするのでは?

それが、そうでもないんです。いきなりミッションやビジョンについて意見を求めるのではなく、デザインラフを見せながら話をすると、どんどん意見が出てくるんです。

オーバーオールズ取材の4枚目の画像です。

画像提供:OVER ALLs

 

「深度と領域」というビジョンがテーマの会議室では、最初のラフでは海の底へ深く潜ろうとする人の姿を描いたのですが、「うちの会社はみんな主体的に動いているので、第三者ではなく自分の目線で潜っているように描いたほうがいい」「下に潜っていくというのは暗い印象があり、ドツボにはまるようで嫌だ」「うちの社員は仲がいい。一人しか描かれていないのは孤独感を覚えるので当社に合っていない」などなど、堰を切ったようにいろいろな意見が出てきました。

僕らが考えたラフはあくまでたたき台。皆さんの意見をもとにラフを作成し直しました。そして、それを社長にお見せしたら「本当に社員がこういうコンセプトがいいと言ったの?どれもすごくいいね!」と大興奮してくださいました。しかし「…すごくいいんだけれど、今の状態では社内に閉じた表現になっている。『社会の中の当社』を表現してほしい」と全部ひっくり返されましたが(笑)。

 

――それだけヒアリングを重ねてデザインを推敲したのに、全部ひっくり返されるとは。御社の労力と負担が大きい、大変な仕事ですね。

「ここまでやったんだから、全部やり直すならもっとお金をください」と言うアーティストもいるかもしれませんが、我々にとってお客さんは、互いに妥協せずアイディアを磨き上げベストな作品を生み出すためのパートナー。何度やり直しになっても、「大変だ」「負担だ」などと考えたことはありません。

他のアーティストから「そんなことやっていたら儲からないでしょ?」と言われたこともあります。アーティストももちろん、ビジネスとして成り立たせる方法を考える必要があります。しかし、こと作品づくりにおいては、儲かる・儲からないという発想で臨んでいては決して良いものは作れないと思っています。

正解・不正解がないのがアート。社員が誰しも意見を言いやすい

――赤澤社長は、そのアーティスティックな髪型やファッションも注目を集めていらっしゃいますね。クライアント企業にも、その姿で訪問されているとか。

僕がこういう格好をして行くとクライアントの社内がざわつきますが(笑)、実はそれが狙いでもあります。これから何が起こるんだろう?という心構えができますし、意見が言いやすくもなります。

この格好でアートとビジネスの関係性をお伝えして、こんなのどうでしょう?とラフを見せると、感度の良い方などは興味を持ってくださって、「これは違う」などと意見が出ます。「では、どんなものがいいんですか?」と更にアイデアを引き出す。正解・不正解がないのがアート。だから、「これは好き・これは嫌い」と意見が言いやすく、突破口が見出しやすいんです。

アートと異なり、仕事には常に正解・不正解が付きまといます。反響を数値化し分析するなどして、成功だったか失敗だったかをすぐに判断できる。

だからこそ、現在のビジネスシーンにおいて、ある意味真逆のアートが求められているのではないかと思います。

 

――今までにオフィスアートを手掛けた企業において、こんないい効果や変化があったなどの声は聞こえてきていますか?

企業理念やビジョンが「社員一人ひとりに浸透した」といった声が多いですね。企業理念を壁画に仕上げたある企業からは「モチベーションサーベイのスコアが急激に上昇した」という話も伺っています。

加えて、採用サイトからの応募者数が数倍に増えたという声もあります。採用ページ内の画像に制作した壁画を使い、「このアートは社員全員でディスカッションしながらコンセプトを決め、プロに描いてもらった」と記したことで、応募者の目を引き「この会社は面白そうだ」という印象につながったようです。

オフィスアートが、社会への介在価値を感じられるツールになれば

――現在、企業からの要望が引きも切らない状態と伺っていますが、御社が「オフィスアートで目指す未来」とは、どんなものですか?

当社のテーマである「アートで日本を楽しく」を実現することです。

実は僕、若いころに引きこもりを経験しています。24歳ぐらいまで古着屋のアルバイト店長をしていたのですが、「日本で一番難しいものに挑戦しよう」と一念発起して司法試験に挑戦すると決め、ロースクールに通い始めました。でも、暗記漬けの毎日でうつ病になってしまって。討論は得意なので、どうにか単位は取ることができ卒業もできたんですが、その後はずっと自宅に引きこもり、毎日テレビや映画、マンガを見続けるという生活を3年も続けました。

そんな時代を精神面、金銭面で支えてくれたのが、今の妻。引きこもり生活が長引き、2年経ったあたりで、「司法試験云々言っていないで、いったん働きなさい」とお尻を叩いてくれました。
彼女には頭が上がりませんから、重い腰を上げて就職活動を始めたのですが、一向に決まる気配がない。日本経済が冷え込み氷河期の真っただ中だったので、「前職ほぼなし・ブランクあり」の僕が簡単に通るわけはないのですが、自分はもう社会に必要とされていないのではないかと落ち込みました。

そんなとき、前職の人材派遣会社でアルバイトの営業担当者を募集しているという話を彼女が聞きつけてくれたんです。「上場企業やし、どうせ落ちるやろ」と思っていたのですが、ありがたいことに採用されてしまった。当時すでに29歳、営業は未経験。こうなったら腹をくくってやるしかない!とがむしゃらに働き、5年間の在籍期間中に社長賞を取り、ビジネスコンテストでも評価され社内ベンチャーを立ち上げるまでになりました。

この5年で得られた経験は大きく、何物にも代えがたいのですが、何より嬉しかったのは、人材派遣会社の営業担当として派遣社員のために一生懸命働くことで「お前は役に立っている、生きていていいんだ」と言われている感覚を得られたことです。

働くことに誇りを持つことができ、世の中の役に立っていると実感できれば、自ら命を絶つ人を減らすこともできるのではないか…と思っています。

オーバーオールズ取材の5枚目の画像です。

オフィスアートの良いところは、会社側から「これがうちの企業理念だ」と押し付けられるのではなく、社員が「自分で感じる」ことができる点です。社員個々人が自分のフィルターを通して見ていい。解釈していいんです。アートには“感じさせる余白”がある。それがアートの凄いところです。

主体的に理念を感じられれば会社と自然につながることができ、働くことに対するモチベーションも高まります。仕事は決して楽ではないけれど、明日も頑張ろう…そう思える人が増えるのではないでしょうか。

 

――企業理念をアートにすることで、多くの人が社会への介在意識を持つことができて、もっとイキイキ生きられるようになる。そんな未来を思い描いておられるのですね。

以前、JR東日本と協働して「ART LOOP TOKYO」というアートイベントを行ったことがあります。山手線がアートであふれ、世界中から「ART LOOP」と呼ばれたら素敵だよねという発想から生まれた取り組みですが、当初僕は自殺者が多い駅でアートを展開したいと提案したんです。例えば、そういう駅周辺の擁壁に絵を描いて、一人でも「絵がきれいだから飛び込むのを止めよう」と思ってもらえればいいなと。

オーバーオールズ取材の6枚目の画像です。

 

アーティストは、プロとして目標を探求し、追求して、誰よりも高みを目指すという職業だと考えています。少なくとも山本をはじめうちのアーティストは、日本を良くするために日々努力しています。アートで企業理念を浸透させたい、社員のモチベーションを高めたい、社会への介在価値を感じてもらいイキイキ過ごせる人を増やしたい…いずれも当社のメンバー全員が真剣に考え、目指していることです。

ありがたいことに、オフィスアートに対する企業からの引き合いは増えていますが、1社1社の想いを掘り下げ、高みを目指す工程は絶対に外せない。これからも企業と真剣に向き合い、その想いをクオリティ高く、描き続けていきたいと思います。

text: 伊藤理子
photo: 石原敦志

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