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INTERVIEW

これからのオフィスづくりに必要な「コンストラクション・マネジメント」の視点とは?

2019.12.16

今、「コンストラクション・マネジメント」が注目されています。
コンストラクション・マネジメントとは、オフィスビルなどを建設する際、事業主の立場に立って建設プロジェクトの内容が適正かどうか判断し、適切なスケジュールやコスト管理、品質管理などを行う幅広いマネジメントサービスを提供するというもの。コストダウンや品質向上につながることから、取り入れる企業や団体が増えています。

そこで、日本におけるコンストラクション・マネジメントの草分け的存在である日建設計コンストラクション・マネジメントの水野和則社長にインタビュー。コンストラクション・マネジメントの役割やメリット、実際の導入事例、そしてこれからのオフィスのあり方などについて伺いました。

日建設計取材の1枚目の画像です。
日建設計コンストラクション・マネジメントのロゴです。
日建設計コンストラクション・マネジメント株式会社
代表取締役社長
水野 和則 氏

1984年 京都大学大学院修士課程を修了し、同年日建設計入社。主に金融機関の拠点ビル、本社ビルの設計・マネジメント業務に従事。日建設計バリューマネジメント部門を経て、2008年 日建設計コンストラクション・マネジメント代表取締役副社長就任。2014年 同代表取締役社長に就任。

事業主の立場に立ち、適正なコスト、スケジュールを判断する

――コンストラクション・マネジメントのパイオニアである貴社ですが、どのような背景で会社設立に至ったのか、その背景を教えていただけますか?

当社の母体は、建物の企画・設計などを手掛ける日建設計ですが、その起源は1900年に設立された住友本店の臨時建築部。主に、グループの建物の営繕(建築物の新築や修理)を担当していました。その後、戦後の財閥解体などを経て同部門が独立し、1950年に日建設計工務(現・日建設計)として設立されました。
その日建設計のグループ会社として、当社が設立されたのが2005年。1900年以降、臨時建築部~日建設計により建てられた建物はたくさんありますが、長い年月を経て改築や修繕、建て替えなど設計以外のさまざまな課題が寄せられるようになり、それらの課題に応える専門部隊として当社が誕生したのです。


――具体的にはどんな役割を担っているのですか?

建物を建てるときには、設計者と施工者が存在しますが、我々はそのどちらにも属しません。その建物を建てる「事業主」の側に立ち、ニーズを深掘りしながらどういう施設要件が最適かを考え、プロジェクト全体のコストやスケジュール、クオリティを考えながら設計者や施工者の提案が適切かどうか判断します。実際に設計が始まってからも、本当に事業主の目指すものになっているか随時確認し、軌道修正を行います。


――事業主の側に立って、新しい建築物の建設プロジェクトが適正なものかどうかを判断してくれるわけですね。

日建設計取材の2枚目の画像です。

 

建設段階だけではなく、建物が完成した後の運用やリニューアル、リノベーションにも関わっています。事業主は完成した建物を運用して初めて「建物を活かせる」わけですが、その運用についてのご要望にも対応しています。

また、年数が経てば建物に対するニーズも変化しますし、建物自体も劣化します。そして、耐震基準などの法規制も変化します。それに応じて、リニューアルやリノベーションの相談に乗ったり、場合によっては売却したほうがいいという提案をしたりすることもあります。つまり、「建物のライフサイクルすべてにおいて、専門知識をもとにコンサルテーションを行う」のが当社の役割です。


――事業主の立場から見れば、建物の問題や課題、ニーズに何でも応えてくれる貴社の存在は心強いですね。

建設プロジェクトは複雑であり、専門知識が求められます。昔のように自社でどんどん新しいビルを建てられる時代ならば別ですが、建設を知り尽くしている専門家を自社内で抱えるのは人件費の面からみても難しいものです。必要なときにアウトソースでき、かつ信頼して任せることができるプロフェッショナルとして、我々の存在価値が高まりつつあると感じています。

建物が最も活きる方法を考えながら、プロジェクト全体を最適化する

――貴社ではさまざまなコンストラクション・マネジメントの事例をお持ちだと思いますが、最近の主だった事例を教えていただけますか?

日立市新庁舎の画像です。

撮影者 松﨑 直人


直近のビッグプロジェクトは、日立市の新庁舎建設事業です。以前の庁舎はもともと老朽化が進んでいましたが、東日本大震災で甚大な被害を受けたことで、災害に強い新庁舎が作られることになりました。

設計は同市出身の世界的な建築家・妹島和世さんが担当されました。素晴らしいデザインなのですが、コストのマネジメントが必要で、働く市の職員や利用する市民の使い勝手などを考えながら意見を投げ、会話をしながらスリム化する部分、維持・補強する部分を市や設計事務所と話し合いました。
結果的には建物は当初の設計案よりもシンプルにしてコストを削り、多くの市民の皆さんが集う広場部分は当初のデザインを活かしながらローコストにつながる工夫をしました。


――貴社は官庁など公共機関の建設で、豊富な実績をお持ちだと伺っています。今までの事例で得たノウハウやナレッジを活かしつつ、最適化を図っておられるのですね。

ありがたいことに、官公庁からの依頼は多く、今回の案件でもそれらを経験したことで得た知見を活かすことができました。
そしてもちろん、オフィスビルや商業施設などにも多く関わっています。最近手掛けたものの中では、新宿西口にある「新宿董友ビル」は当グループならではの総合力が活かせた案件です。
このビルは、キユーピーの創業会社・中島董商店所有のオフィスビル。築40年を迎え、耐震強化や設備の老朽化対応が急務となっていました。「思い入れがあるビルであり、手放したくはない。可能であれば事業収益も上げたい。いい活用方法はないだろうか」との相談を受け、サービスオフィスへのコンバージョン(用途変更)を提案。サービスオフィスとして広く入居者を募るには「顔」が大事なので、コストやスケジュールを勘案しつつ、インテリアデザインを手掛けるグループ会社と連携を取ってデザイン性を重視し、建物の価値を高めました。


――事業主側から寄せられるニーズや課題はどんなものが多いのでしょうか?

日建設計取材の4枚目の画像です。

 

メーカーからのご要望で最近目立っているのは、国内生産拠点の海外移転に伴う、工場などの施設の有効活用についての相談です。使わなくなった工場を研究所や開発センター、オフィスへとコンバージョンするケースが増えつつあります。ただ、例えば工場とオフィスでは防災基準や空調基準が大きく異なります。コンバージョンすることで何をどう変えなければいけないか、それによりどれぐらいのコストが発生するのか、コストに見合っただけの効果があるのかなど、全体を俯瞰しながら判断し、最適な方法を考える必要があります。

大規模な生産拠点の場合、広い敷地の中に複数の工場が建っているケースもありますが、時間が経てば経つほど、メンテナンス費用がかさみます。まずどの建物から手を付けるべきか、どの建物を残すべきかなどを迅速に判断する必要があり、高い専門知識と戦略立案のスキルが必要とされます。


――確かに、海外進出企業が増える中、使わなくなる国内生産拠点の有効活用は各社の喫緊の課題になっていますね。メーカー以外では、いかがでしょうか?

金融機関からのご相談も増えていますね。例えば銀行では、ゼロ金利時代になり支店の在り方が大きく変化しています。各支店に多くの人員を配置するのはコストに見合わないため、例えば1階はATMだけにして人員配置を極力減らし、2階に融資の相談コーナーなどの窓口を置くなど、人手がかからない店舗設計が求められています。


――時代の変化をつかみ、先を読みながら提案することも重要なのですね。

その通りです。生命保険会社も同じで、大手の生保であれば以前は各地域に自社ビルの営業拠点がありましたが、今は少子高齢化の進行で契約対象者が減っているため、これまでのように立派な拠点を構え続けるのはリスクです。コンパクトで、いざというときにすぐ解体できるような建物に建て替える動きが活発化していますが、それらも我々が助言し、お手伝いしています。


――コンストラクション・マネジメントを取り入れたい場合、まず何をすればいいのでしょうか?

できるだけ初期の段階、課題が生じた時点ですぐにご相談いただくのが理想です。不動産は構想段階での差配がモノを言います。初期段階の方がさまざまな可能性を考えることができ、コストやスケジュール面でも幅広い対策を打つことができます。我々が提案・支援できるメソッドは非常に幅広いので、まずはざっくりとした課題感だけでもいいので早めにお声がけいただければと思います。その結果、「こんな可能性があるなんて思ってもみなかった」「思いもよらない活用法に気づくことができた」という声をいただくことも多いですね。

社員が働きやすい環境づくりにも注力

――昨今の働き方改革を受けて、社員が働きやすい環境を整備するためにコンストラクション・マネジメントを取り入れる企業も増えているようですね。

日建設計取材の6枚目の画像です。

 

そのようなご要望も増えています。そして、自社においても「働きやすいオフィスづくり」に力を入れています。
2005年の会社設立時は、わずか12名でのスタートでしたが、現在は300人に及ぶ社員が働いており、オフィスのキャパシティを増やしつつ働きやすさを向上させる取り組みが急務となっていました。さらには、当社の業務は、建設に関わるさまざまなバックグラウンドを持った専門家が集まり、互いのナレッジを共有しながらクライアントの課題に応えることが重要です。社員同士のコミュニケーションが円滑に進められるような環境整備が必要でした。


――そのために新たにオープンしたのが、このサテライトオフィスですか。

本社機能があるビルの隣に、実験的にオープンしました。社員の意見を聞き、働き方を調べた上で、「フリーアドレスの導入」と「ユーティリティスペースの拡張化」などを実施しました。打ち合わせスペースのほか、立ち話しながら情報交換できるスペースを用意するなど、自然なコミュニケーションの発生も意識しました。今後、効果を検証しながらブラッシュアップして、他の地域にあるオフィスにも展開していきたいと考えています。


――オフィスも多数手がけている貴社からみて、これからのオフィス環境はどうあるべきだと思われますか?

日建設計取材の5枚目の画像です。

 

キーワードは、シンプルかつフレキシビリティ。企業を取り巻く環境が目まぐるしく変化する中、事業も組織も、環境に合わせて臨機応変に変化していくことが求められます。それに伴い、オフィスもフレキシブルに変化していく必要がある。机も什器も、いつでも自由に動かせるようにしておくことが大切です。

私は定期的に、海外企業を含め最新のオフィスを視察していますが、最近のトレンドは天井が抜かれていて、床の配線もないオフィス。簡略的で、空間の広さを確保する傾向にありますが、これはフレキシビリティを追求した結果です。賃貸オフィスは退去する際に原状回復する必要がありますが、初めから床も天井材もなければ原状回復する必要はないし、省資源にもつながります。なにより広い空間で圧迫感もないので、社員が自由にコミュニケーションを取りながら、のびのびと、イキイキと働くことができ、生産性向上も期待できます。働き方改革の一環としても、是非多くの企業に取り入れていただきたい考え方だと思っています。

text: 伊藤理子
photo: 石原敦志

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