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INTERVIEW

“場ではなく状況を作る”──共通の美意識を持つ“粋な人”たちが集まるシェアオフィス【みどり荘】とは

2020.03.23

シェアオフィス、コワーキングスペースがまだ一般的に知られていなかった2011年に、中目黒の住宅街に登場した「みどり荘」。その名の通り、蔦で覆われた人目を引く外観と、海外にあるようなヴィンテージ感のあるワーキングスペースを用意し、オープン当初から外国人をはじめ感度の高い人たちから注目を集め、以来、拠点を増やしながら独自の進化を果たしてきました。

クリエイティブなワーカーを魅了してやまない「みどり荘」の魅力の根源とは何か。運営するMIRAI-INSTITUTE株式会社の小柴美保さんに伺いました。
みどり荘取材のメイン画像です。

みどり荘のロゴ画像です。

MIRAI-INSTITUTE株式会社
みどり荘オーガナイザー
小柴 美保 氏

京都大学法学部卒。シティーグループ証券入社後、グローバルマーケッツ部にて日本株の取り扱いに従事。2011年に退社し、IDEE創始者の黒崎輝男氏等とシンクタンクMIRAI-INSTITUTE株式会社を設立、「これからの働き方」の実証の場としてシェアオフィス「みどり荘」を立ち上げた。現在東京都内で中目黒、表参道、永田町の3拠点を運営し、働くにまつわる書籍事業も行っている。

“粋な人”たちが集まりやすい仕掛け

――みどり荘が立ち上がった経緯を教えていただけますか?

外資系投資銀行に勤めていた時に東日本大震災を経験したんですが、オフィスのあった新丸ビルが大きく揺れて恐怖を感じると同時に、「まだ、やり遂げていないことがある」という気持ちが大きく沸き上がりました。

その“やり遂げていないもの”を探すために参加した「Schooling-Pad(現「自由大学」)」で、「IDEE」(オリジナルデザインの家具やインテリア雑貨を取り扱うインテリアショップ)の創始者である黒崎輝男さんと出会って意気投合して。もう一人、日本でインターナショナルスクールを創設したジョナサン(Jonathan Yaffe)たちと3人で夜な夜な集まって、現状に対する問題意識や逆に面白いと思うことなどをとりとめもなく話し合っていました。そこで、銀行を辞めて何か新しいことを始めたいと黒崎さんに相談したら、「考える力がどんどん低下している今の世の中で、考えることを仕事にするようなシンクタンクを作ろうよ」と誘われたんです。

 

そしてあるとき、黒崎さんの知人デザイナーが一面を蔦に覆われた廃墟のような建物を見つけて、面白そうな物件があると教えてくれました。それが今の中目黒みどり荘です。とても広いですし、自分たちだけで使うのはもったいないと思い、だったら「シェアオフィスを始めよう」という話になりました。単純に働くスペースを提供するだけではなく、私たち3人のように集まってとりとめのない話ができるような場を作りたいと思ったんです。

私は高校生の頃、イギリスの高校に留学をしていたんですが、学生寮に誰もが利用できるラウンジがあり、各国から集まった留学生たちが、自分の国の話や政治・経済の話、雑談などを自由に楽しめる場所でした。そういった経験から、“日本にも同じような場所があったらいい”と漠然と考えていて、黒崎さんも若い頃にヒッピー的生き方をしていた時期があったり、世界中を旅するような人なので、すんなりイメージを共有することができました。

みどり荘のキッチン画像です。

 

当時の日本には、まだシェアオフィスという概念がほとんどなかったので、海外のシェアオフィスをいくつか見て回って勉強しました。手持ちの資金もなかったので自分たちでリノベーションを施し、黒崎さんとゆかりがあり、クリエイティブな街として知られる米国ポートランドから家具を取り寄せ、まずは心地よい空間を作ることからはじめました。

 

もしかしたらみどり荘は、クリエイターしか入居できないような空間に映るかもしれませんが、必ずしもそうではありません。

トロント大学のリチャード・フロリダ(Richard L. Florida)教授は、「世界経済は、ビジネスエリートだけでなく、起業家やソフトウェア・プログラマー、デザイナーも含めた0から1を作り出せるような人たちが動かしていくのではないか」と、“0を1にする人たち”を“クリエイティブクラス”と定義しましたが、みどり荘にそんな人たちが集まったら面白いのでは、と考えたんです。もちろん“クリエイティブクラス”予備軍でも全然構いませんが、とにかくみどり荘に0を1にするような人たちが集まって、自然に良いものが生まれればいい、そんな感覚で作りました。

 

――自然に良いものが生まれる空間とはどのような空間なのでしょうか?

よく黒崎さんが言っているのは、“粋であるか”、そして“美意識を持っているか”ということ。例えば、ラベルの貼ってあるペットボトルをそのまま出さない、プラスチックパックのお料理はお皿に移す、とか。主観になりますけど、それだけで豊かに感じられます。

そして花を置くこと。みどり荘では、必ずそこかしこに花を置き、枯らさないようケアを怠ることはありません。

みどり荘の花の画像です。

 

自然に良いものが生まれる空間とは、“人工的”の逆で、自然で、温かみのある居心地の良い空間だと思います。自宅のリビングに置いてあるようなソファーやテーブルを用意しているのもそのためです。

 

このように運営サイドにこだわりと主張があるので、それに対する好き嫌いが生じてくるのは当然のことだと思います。ただ、運営のこだわりや主張を理解してくれる人でなければメンバーになろうとは思わないので、コミュニティ形成は逆にやりやすくなります。これは意外と大切なことで、様々な職種やタイプの人が集まっているけれど、「こういう空間が好き」という共通項があるだけでコミュニティの質を担保することができるんです。

 

――昨今のシェアオフィスやコワーキングスペースは、機能性やデザインなどで多くの人に好まれる空間を作っていますが、それとは真逆の発想ですね。分かる人には分かる空間を作って、美意識やセンスで選別する感覚。

そうです。でも、それは言葉にはできないので、あえて言いません。

共通の美意識を持った“粋な人”たちは、お金を稼ぐためではなく、世の中を良くしたいと考えて行動し、その結果、お金がついてくるという気持ちで働いている人が多いと思います。“面白いからやる”という人もいますね。黒崎さんはその感覚値をうまく表現していると思います。

だから、みどり荘には、そういう生き方をしたいと思う人たちが自然と集まってくる。そして私自身も、お金で価値を測る金融の世界にいながら、「そうではないだろう」と感じていた人間のひとりだったんです。

“発酵”と“触媒”が、仲間を生む

――中目黒のあと、表参道や永田町にも拠点が広がっていきましたが、拡大、分裂することでコミュニティは変質しないのでしょうか?

みどり荘取材の1枚目の画像です。

 

“発酵”と同じで、私たちは「スターター(発酵の素になる種菌)」と呼んでいますが、表参道みどり荘ができると中目黒みどり荘のメンバーの何人かが、便利なので表参道に移動するんですね。そうすると、スターターが表参道に混ざることになって、そこでも発酵が始まるんです。そうしてなんとなく、文化が継承されます。

表参道と中目黒のメンバーは職業的にある程度似ていると思いますが、永田町みどり荘はビジネス寄りの人が比較的多いですね。スタートアップの人も多くいらっしゃいます。ただ、メンバーの職業に関わらず、文化はあまり変わらないという印象です。

 

――最近のシェアオフィスやコワーキングスペースでいうと、新しいつながりを求めて利用する人が増えているように思えますが、そういう方もいらっしゃいますか?

入会希望の方に対しては、内覧をしていただいた後に私たちの方で審査しています。

コミュニティというのは、全く違う、異質な人が入ってしまうと崩壊する可能性もあると思っています。必ずしも同質を求めているわけではありませんが、異質すぎたり、反逆的であればコミュニティを壊しかねないので、その場合は入会をお断りすることもあります。

例えば、自分には出すものがないけれど、つながりだけを求めているというような方はお断りしています。自分にも与えるものがあり、メンバーにならなくても仕事はあるけれど、あえてシェアオフィスに来ているという人がみどり荘にマッチします。

 

異質なものが入ると壊れてしまうという点で、コミュニティと発酵は似ています。ですから、最近はあえてコミュニティという言葉は使わないようにしています。コミュニティという言葉が先行すると、“つながりたい”という意識を誘発してしまうからです。「仲間」と呼んだほうが感覚は近いですね。

 

――各拠点にいるコミュニティオーガナイザーの役割を教えていただけますか?

みどり荘の本棚の画像です。

 

今、みどり荘には8人のオーガナイザーがいますが、彼らは“触媒”の役割を担っています。基本的には掃除をしたり、プリンターの紙の補充を欠かさずしたりといった、みんなが働く場所を整えるためのあらゆる仕事を担当しています。

さらにメンバーと交流を図り、その人が今、どのような気持ちで働いていて、何に困っているか、どういうことをしたいのかを、他愛のない会話から聞きだして解決をしたり、メンバー間のマッチングをします。後者が触媒の役割になります。

 

メンバーと交流を図る理由は、交流などが何も起こらないシェアオフィスなんてやっている意味がないと思うからです。そして、私たちが掲げる「“良質なカオス”を生む」というコンセプトを実行するためでもあります。

良質なカオスとは、ここに来ることで仕事やひらめきが生まれたり、その人にとっては仕事上プラスになることが生まれるけれど、でもその生まれたプロセスは不明といったものでしょうか。生まれるプロセスがカオスということです。

ただ、良質なカオスの先に“新しい何か”が生まれるかどうかは分かりません。何かを生むことを目的にしてしまうと、それはKPIになってしまう。KPIはない方が良いし、そもそもKPIを考えたこともありません。そういう場所だから、メンバーたちが心地よく過ごせるのかもしれませんね。

 

オーガナイザーは、良質なカオスを生み出すために、とにかく場をかき混ぜます。例えば3人くらい働いている人がいるとして、その3人は別な仕事をしていますが、なにか話題を投げれば3人で会話が始まります。その話題を投げる役割がオーガナイザーです。しかし自然発生をさせたいのでリードはしません。良質なカオスを生み出すまでが役割です。

 

――ただ人と人を会わせれば良いというわけではなく、カオスを作るというクリエイティブな仕事ですね。

AIじゃできないと思います(笑)。

みどり荘取材の2枚目の画像です。

 

最近はみどり荘の運営だけでなく、シェアオフィスやコワーキングスペースを作りたいと考えている方に向けた立ち上げのコンサルティングや運営委託も行っていて、大手ディベロッパーのシェアオフィスではコミュニティ形成のお手伝いもさせていただいています。

“どこにあってもみどり荘”を目指す

――みどり荘ならではの発酵のメカニズムを外部に持ち出すことは可能なのでしょうか?

立ち上げから関わっていないと、意外と難しいですね。シェアオフィスは動線がかなり重要で、コミュニティ形成のためには入口から自室に直結するのではなく、誰もが必ず通るような、家庭でいうところのリビングのような場所があることが理想です。もちろんそうではない場合もあるので、知恵を絞りあって、イベントなどを通して接点を増やすことを目指しています。

あとは、場をかき混ぜるコミュニティオーガナイザーの力量ですね。みどり荘でもそうですが、他愛ない話からどのようにしてビジネスの話まで持っていくかというのが重要になります。

 

――最初は他愛ない話からはじまるところに、みどり荘の良さがありますものね。

最初はダラダラと話が始まるかもしれませんが、最終的にはビジネスにつながります。良質なカオスとはそういうことです。

 

――今後のみどり荘はどうなっていくのでしょうか?

設備とかは完璧ではないかもしれないけれど、面白い人がいる、会いたい人がいる、話をしたい人がいるから来るという場所になっていくと思います。人が主体の空間という感覚ですね。

面白く仕事をしている人や、楽しみながら仕事をしている人にみどり荘に来てほしいです。そういう人たちが集まると、雰囲気が良くなります。面白い人や会いたい人に会えて、仕事もできて、「今日も一日良い日だった」と感じられるような、漠然と“楽しい場所”になればいいと思っています。これからも、このみどり荘を増やしていきたいですね。

 

そもそもシンクタンクから始まっているので、新しい働き方をどのように提示できるかというのが私たちのミッションでもあり、それがきっと世の中を変えていくと思っています。「We Work HERE」という書籍を作ったのも、「働くことが面白ければなお良い」というメッセージを伝えたかったというのがあります。黒崎さんは場ではなく“状況”と呼んでいますが、いかにその状況を作れるかだと思います。

 

――規模が大きくなり、拠点の数が増えると、みどり荘らしさが薄まるということはありませんか?

コミュニティオーガナイザーがしっかりと役割を果たせたら、できないことではないと考えています。みどり荘のスピリットは、規模が大きくなっても変わりません。

 

――箱が変わっても、大きさが変わっても中身はみどり荘だというのが理想的ということですね。

教会みたいな感じがいいですね。教会はコミュニティ。場所が変わっても、みんなが持っているバイブルは同じ、みたいな。そのバイブルに当たるスピリットが「働くとは何か?」であって、どこにあってもみどり荘というのが理想ですね。最終的にそこを目指したいのですが、今はその方法を模索中といったところでしょうか。

text: 伊藤秋廣
photo: 石原敦志

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