「働き方改革」ってなんだ?働き方のプロが語る"現状"と"理想の姿"【コクヨワークスタイル研究所 】 | akeruto_ はたらく未来のカギになる

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INTERVIEW

「働き方改革」ってなんだ?働き方のプロが語る“現状”と“理想の姿”【コクヨワークスタイル研究所 】

2019.11.20

オフィス家具、文具を手掛けるコクヨ株式会社の研究機能である、コクヨ ワークスタイル研究所。国内外問わず、これからの“働き方”と“働く場”についての情報収集と調査研究を行い、社内外に広く発信しています。

今回は、そのワークスタイル研究所所長であり「働き方」の専門家である若原強さんに、現在日本企業が推し進めている「働き方改革」の現状と、理想の姿について語っていただきました。

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コクヨワークスタイル研究所 所長 / consulting & more 代表 / 複業家
若原 強 氏

東京大学工学部、同大学院工学系研究科修了後、SIer、経営コンサルファーム、広告代理店を経て2011年コクヨ株式会社入社、2016年より現職。コクヨとの複業で個人事業も立ち上げ、パラレルワーカー(複業家)として活動中。コクヨでは働き方・暮らし方の研究に従事、自身の個人事業ではマーケティングコンサルタントとして活動。TV・新聞・WEB・講演等での露出多数。

前近代的な仕組みと現場で働く個人との間に、大きなひずみが生じている

――この4月より働き方改革関連法が随時施行され、各企業とも「働き方改革」に本腰を入れています。一方で、「働き方改革がうまく進まない」と悩む企業も少なくないようです。

今の日本企業のベースにある「働く仕組み」ができ上がったのは、戦後の高度経済成長期。その後、時代は移り変わり、日本経済は大きな変化を遂げてきました。それに伴い働く人の環境や考え方も変わり、集団就職による滅私奉公の時代から「24時間戦えますか」というCMが流行したバブル期などを経て、現在ではナンバーワンよりオンリーワンを目指すという「個」を大切にする価値観が主流です。

このように、変化し続けてきた経済、社会、そして個人と、その一方で未だに根強く残る大昔の「働く仕組み」とのギャップが、ひずみを生んでいるとも分析しています。

働き方改革とは本来、このギャップを埋め、ひずみをなくすことが目的であるべき。働く人が幸せになり、経営にもメリットがある改革をすべきなのに、本質的な課題に目を向けず、「政府の方針だから残業時間を〇時間減らそう、生産性を〇%上げよう」などと単に数値目標ばかりを追っていては、道を大きく見誤る危険性があります。

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うまくいっている企業は「社員に裁量を渡している」

――働き方改革がうまく進んでいる企業には、どんな特徴があるのでしょうか?

仕事上、成功例も失敗例もさまざま見てきましたが、うまく進んでいる企業は「社員への裁量の渡し方がうまい」と感じますね。

たとえば、ある通販サイト運営会社は、仕事量と給与額は変えず、1日8時間から6時間に勤務時間を短縮。社員に「早く帰る裁量」を与えています。もちろん、仕事が終わらなければ従来通り8時間働いても問題ありませんが、定時で帰ることができれば差分の2時間が対価として還元され、可処分所得が増えるというインセンティブとなっています。実際、個々が業務効率化を進めたことで多くの人が6時間で退社できるようになり、その会社の収益性も向上しているとのことです。


――会社側がむりやり残業を規制すると、「仕事は山のようにあるのに帰れだなんて!」などと反発を生みますが、時間の裁量を与えると社員が自らの判断で動くことができますね。

その通りです。「自らの判断で動く」ことをいかに促すかが重要です。同じ文脈で、1日の勤務時間を短縮するのではなく、「1年のうち1カ月を休みにする」という方針を打ち出している企業もありますよ。

個人が年間スケジュールを立て、工夫しながら業務を進めることで、1年間の業務を11カ月で終わらせることができれば、有給休暇を取らずとも1カ月間というまとまった休みを取ることが可能です。このような、「時間の使い方に裁量を与え、社員の自由な時間を増やす」方法は、社員の主体性と創意工夫を生み、経営効率化にもつながる非常に効果的な取り組みだと思います。


――「時間」以外の裁量を与えている事例はありますか?

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「働く場所の裁量を渡す」方法があります。これは比較的多くの企業が取り組み、実際に成果を上げているケースが多いですね。

例えば、コワーキングスペースと法人契約を結び、社員であればだれでも使えるようにしている企業はかなり増えています。営業など移動が多い職種には「アポとアポの間にわざわざオフィスに戻らなくてもよく、席が空いているカフェを探す必要もないから、生産性が上がり時間に余裕が生まれる」と喜ばれています。

この「場所の裁量」はオフィス内でも実現可能です。当社のオフィスが、まさに代表例です。
基本的に全席フリーアドレスで、集中したいときには一人ブースの集中席、意見交換しながら働きたいときには皆が集まれるミーティング席、リラックスしながら働きたいときはカフェ風のオープンスペースなど、その時の気分や仕事内容、目的に応じて席を選んで仕事ができます。人の往来が多いオープンスペースでは、自然に部署をまたいで会話が生まれます。実際今のオフィスになってからは、社内での、とくに今まで仕事で接点のなかった人たちとのコミュニケーションの幅が広がったと感じています。

ワーケーションでチーム全体の生産性を上げる

――場所を自由に選ぶ働き方は、「ABW(アクティビティー・ベースド・ワーキング)」と呼ばれ、注目を集めているようですね。

ABWには、その解釈にいくつかのスコープがあると考えています。最も狭義なABWは、前述した「オフィス空間内」で場所を自由に選ぶ働き方です。ここから一段解釈を広げると、これも前述した「オフィス自体を働く場の選択肢の1つとしてとらえ、街中のコワーキングスペースや公共空間も自由に使い分ける」働き方となり、ひとつ広義のABWとなります。さらに解釈を広げると、日本全国で場所を自由に選んで働くという景色が現れ、「ワーケーション」という選択肢も視野に入ってきます。

「ワーケーション」とは、ワークとバケーションを組み合わせた造語で、旅先で仕事をする働き方のこと。実際、チーム単位で都心から飛び出し、リゾート地などで一定期間働くという動きが徐々に出始めています。ワーケーションのメリットは、ワークを圧迫することなくライフを充実させられること。総務省が地方でサテライトオフィスの利用を推進するなど、ワーケーションの選択肢も広がっています。


――ワーケーションを実施することで、どのような効果が期待できるのでしょう?

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日常のオフィスとは異なる生産性の上がり方が特徴的です。私のチームでも、ワーケーションを何度か実施しましたが、非日常な場所でリフレッシュしながら、仕事の生産性をヘルシーに上げることができました。

例えば鹿児島県でサテライトオフィスを利用した時のことですが、チームで滞在しているので、みんなで食事を共にすることも多くなるわけです。近所の方にオススメの飲食店を教えてもらい、「今日の夕食は黒毛和牛のお店に行くけれど、人気店ですごく混むから、18時までに仕事を終わらせよう!」と号令をかけたところ、みんな協力し合いあっという間にその日の仕事を終えることができました。

このように、非日常体験をインセンティブとすることで誰もが自然とポジティブになれ、ヘルシーに生産性も上げることができるのでオススメです。

もちろん、チーム単位ではなく、個人で行くワーケーション、家族で行くワーケーションを制度化する企業も増えつつあります。例えば、子どもに自然の中での生活を体験させたいと考えたとき、通常ならば休日を使って遠出をしなければなりませんが、ワーケーションを使えば平日にリゾート地で働きつつ、業務時間外に親子での非日常体験を楽しむことができます。

このように、一部の企業では多様な働き方を用意しさまざまな個人のニーズに応えることで、長時間労働を是正し業務効率化を実現しています。個人が自分に合った働き方を選択できるよう、企業が働く選択肢を増やし裁量を与えることが、これからの働き方改革の1つの「軸」になるものと考えています。

「自分の働き方は自分でアップデートする」時代に

――ただ、なかなか従来型の考え方を捨てきれず、旧態依然とした組織運営から抜けられない企業もあるようですね。

意思決定を行う経営陣が、頑なに「高度経済成長期」時代の価値観を引きずっている場合は、いくら「働き方改革とは」を説いたところで本質的な課題解決は難しいでしょうね。これは働き方改革に限った話ではないと思いますが、意思決定層の価値観が変わらない中での社員からの働きかけには、正直限界があると思います。


――そんな環境下にある個人は、現状をどう捉え、どう行動すればいいのでしょう?

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旧態依然の企業に所属している人だけでなく、これからのビジネスパーソンは皆、「自分の働き方は自分でアップデートする」という意識を持つことが大事だと思います。会社に頼り、受け身で改革を待つのではなく、その時に置かれているステージに合わせて、自分なりの働き方を自ら設計していくのです。

1つの企業、1つの事業の寿命が過去よりも短命化する傾向にある今、キャリアの主権は企業から個人に移りつつあると感じています。会社に依存するのではなく、個人が「より自分らしく働ける方法」を追求すべき時代になりつつあるのです。

例えばですが、「子どもが生まれたばかりだから、しばらくはワークよりもライフを充実させる働き方をしよう」、「新しい役割にもっとコミットしたいから、今はとにかく働くことを優先し自己投資も行おう」、「今の仕事の範疇を超えてチャレンジしたいから、複業を始めてみよう」など。個人が主体的に考え、行動すれば、会社の態勢は変わらなくても自分の働き方は変えることができます。

ここで大事なのは、こう働きたいという権利を主張するだけでなく、その分会社からの期待にもきちんと応える、つまり会社とのギブ&テイクの関係がきちんとある上で、このような自立が初めて成り立つということです。会社に依存している中で、自分の要望だけを主張するのでは単なるワガママ社員になってしまいます。


――若原さんご自身も、コクヨの正社員として働きながら、会社経営もされているとか。複業を持つようになってから、ご自身の意識や会社との関係性は変わりましたか?

変わりましたね。複業を持ってから「自分の人生を、主人公として生きている」という実感がより強く持てるようになりました。

今までに何度か転職を経験していますが、スナップショットで見ると1社でしか働いたことがなく、仕事の上では常に「〇〇会社に所属する若原」でした。そして、その時々の勤務先に属している前提で、住む場所を決めたり、キャリアステップを考えたりするなど、勤務先に少なからず制約を受けながら人生を送ってきました。

しかし複業を持ってからは、「コクヨの若原」と「複業の若原」に共通する「若原」という個人を主語にして物事を考える意識が出てきたと感じています。何か判断をするときには、会社前提ではなく「まず自分はどう生きたいのか、どう働きたいのか」を考えるようになってきたことが、先に申し上げた「主人公」感を強めているのだと思います。

働く選択肢が増えれば、「いいところ取り」がしやすくなる

――若原さんが今後チャレンジしたい「新しい働き方」についてお聞かせください。

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当研究所では、今後もさまざまな働き方を取り入れ、新しい取り組みもどんどん実践していきたいと考えていますが、私個人としてはぜひ「多拠点居住」にチャレンジしたいと考えています。

「多拠点居住」とは、1つの場所に定住するのではなく、住まい、仕事をする場所、趣味の場所など、複数の拠点を持ち行き来することを指します。

今は都心を生活の拠点としていますが、もともと出身が北海道ということもあり、以前から「いつか自然の中で暮らしたい」という思いを持っていました。完全に地方に移住するのはハードルが高いですが、地方でも仕事の拠点を持ち、都心と地方を行ったり来たりすることで「都会と地方のいいところ取り」をするという、多拠点居住の考え方に惹かれています。


――「多拠点居住」をしている人は増えつつあるのですか?

自分らしい働き方を追求する人の中で、注目を集め始めているようですね。ある調査では、こういった暮らしを志向する人はすでに1,100万人に達しているというデータもあります。さらに、ここにきて多拠点居住をサポートするサービスが相次いで生まれています。

定額で、全国に散在するコワーキングスペースが使いたい放題になるサービスや、全国のシェアハウスが住み放題になるサービス、さらには、都心で働くワーカーと地方企業をつなぐ副業マッチングサイトも登場しています。これらを活用すれば、地方での職も、ワークスペースも、住居も確保できます。

私のように子どもを持つ家庭向けには、地方と都心の学校を結ぶ「デュアルスクール」という仕組みも実験され始めているようです。多拠点居住の際に不安視されることの多い教育面も整備されつつあります。


――「働く選択肢」もどんどん広がっているのですね。

働く個人から見れば「いいところ取りがしやすい世の中になりつつある」とも言えますね。この環境を好機と捉え、もっと多くの人にさまざまな働き方にチャレンジしてほしいと思います。毎日同じオフィスに出社して、9時17時で働いて…という日常が続く中で、「この状況が当たり前だから」と思考が停止してしまうのはとてももったいない。

ビジネスパーソン一人ひとりが、日々の時間の使い方に注目し、「自分らしい働き方」を意識するだけで、キャリアの可能性はぐんと広がるはず。仕事だけでなく、生活や趣味などプライベートもかけ合わせて考えれば、より有意義かつ成果の出る働き方を選択できるのではないでしょうか。

text: 伊藤理子
photo: 石原敦志

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