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INTERVIEW

環境やツールの変化にあわせてオフィスシーンをサポートし続ける“文具”の力【キングジム】

2019.12.09

ファイルを中心としたオフィス文具を手掛けてきたキングジム。「事務のキングを目指す」という社名の由来通り、オフィスの事務まわりを便利に、効率よくする商品を次々に開発しています。

今回は、同社を代表する商品である「テプラ」「ポメラ」の開発にも携わったという常務取締役・開発本部長の亀田登信さんに、時代とともに変化していくオフィススタイルにどのように対応し、独自の商品を開発してきたのかをお話いただきました。

変化にあわせてオフィスシーンをサポートし続ける“文具”の力の1枚目の画像です。
キングジムのロゴです。
株式会社キングジム
常務取締役開発本部長
亀田 登信 氏

1963年 東京生まれ。
1985年 明治大学法学部卒業。キングジム入社後、商品開発部に配属。
1986年 電子文具開発プロジェクト「Eプロジェクト」が発足し、プロジェクトメンバーとして「テプラ」の開発を担当。
2007年 電子文具開発部部長に就任。
2011年 執行役員開発本部副部長に就任。
2014年 取締役開発本部長兼広報室担当に就任。
2016年 常務取締役開発本部長兼広報室担当(現任)

職場環境の変化の歴史は、ツール変化の歴史でもある

――ファイルの製造販売において長い歴史をお持ちですが、当初はどのようなお考えでファイルを開発されたのでしょうか。

当社は創業90周年を超えていますが1980年ぐらいまでは、ほぼ紙を綴じるファイルが中心のメーカーでした。キングファイルのシリーズは、すでに50年以上続いており、キングファイルが並んだオフィスの光景をよく見ますが、この背見出しのデザインの狙いは、オフィスの働く環境を明るくしたいということだったそうです。

当時の書類は、布張りで比較的地味な色合いの表紙のファイルにまとめられているのが一般的でした。その光景から、事務所の雰囲気をガラリと変えたのがキングファイルなんです。背面にカラフルなスクエアパターンをつけて、白い面を多くしたファイルを棚に並べれば、事務所が明るくなるだろうという狙いがあったんですね。

オフィスにいちはやくデザインという概念を取り込んで、働く方の環境をよくしたいというマインドは、創業時から今も続いている考え方だと思います。


――紙の資料が中心だった時代から、OA化によって事務の現場も変わったと思いますが、時代の変化をどう乗り越えてきたのでしょうか。

キングジムは、今でこそ個人向けの商品もありますが、基本的にはオフィスワーカーの方に強いブランド。なので社会人の方に社名を言うと、「ファイルやテプラの会社ね」ってわかってもらえるんですが、学生は「ボクシングジムですか?」って言う人もいたりする。

圧倒的に、個人じゃなくて法人に強い会社で、働く方をサポートするためのツールをずっと出し続けてきました。キングファイルも「テプラ」も、それ自体が主役ではない。あくまでも、モノを整理するためのひとつのツールなんです。
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事務作業はもともと電卓と紙と鉛筆でやってきたところに、OA化の波がやってきました。

キングジムが「テプラ」を始めたきっかけは、OA化でペーパーレス社会がやってくるのではないかという危機感からです。紙がなくなっていくなか、これからのオフィス環境には何が必要なんだろうかと考えた中で生まれたのが、これまでに蓄積してきたファイリングのノウハウを活かした電子的な文具である「テプラ」です。電子文具シリーズは「テプラ」以降もさまざまな製品を市場投入してきたことで今では当社の売上の中で大きなボリュームを占めるまでに成長しました。

オフィスの環境が変わることがきっかけで、電子文具が生まれました。変化の先に何がくるのか、というのを考えて開発するのは難しいことですが、それができたことが大きかった。「失敗を恐れずにまずはやってみる」という社風のおかげで、いろいろな製品を世に出せているのが強みかもしれません。


――商品の名前もわかりやすくて面白いものが多いですね

文具は、そもそもそういう商品名が多いのかもしれません。「テプラ」や「ポメラ」は、完全なる造語。完全なる造語って、浸透するまでにすごく時間がかかりますが、浸透したあとはすごく強い。唯一無二のものになれます。今では、テープライターというより、「テプラ」という方が伝わる場面が多いぐらいです。


――今までにないものを作って時代に対応する発想力はどこからくるのでしょうか。

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発想は、普段自分が働いている中で感じた課題をもとに思いつくことも多いです。というのも、開発担当者も実際に働く当事者ですからね。それとは別に、上司から「こういう市場はどうだろう」と提案することもあります。

商品としては、デジタル文具を中心に変わったものもいろいろ出していますが、土台には文房具の考え方があります。文房具って、ずっと変化なく使い続けられているものが多い。例えば、シャープペンシルなら、時代が変わっても芯はほとんど変わらないし、新しい本体にも同じ芯が使えますよね。

キングジムの商品も、「今までにあるものを変わらず使いながら、時代やニーズにあったものをプラスして新しさを生み出せれば」と思って開発しています。そして、その新しいものが当然のようにオフィスにあって、普通に活用してもらえるようになるのが何よりです。普段は意識しないけど、実はそのグッズのおかげですごく便利になっていた、みたいな。パソコンやスマホが、いつの間にかなくてはならない存在になっているように。自然にワークスタイルに溶け込むものになればいいですね。


――開発するときに大事にしているポイントなどはありますか?

自分が「欲しい」と思うものじゃないとダメですね。ちゃんと欲しい理由があってそこに向けてしっかり開発すれば、たとえニッチな市場だったとしても支持する人が出てきます。

多分、「欲しい」っていう気持ちがベースにないと、そもそも開発するのは難しいでしょうね。市場で今ある商品がこれで、そのなかでキングジムっぽいものを考えよう、と言っても、その市場に興味がないと考えられないと思います。それを無理にやらせるのは、運動部のうさぎ跳びみたいになっちゃう。練習としてなら、ある程度は必要かもしれないですが、そればっかりやっても面白くないですよね。


――亀田さん自身が、手放せなくなった商品などはありますか。

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もう発売していないものになってしまうのですが、10年ほど前に発売した「電子日付印」は手放せないですね。
普通の日付印だと、うっかり日付を直さないまま押してしまったりするんですが。電子日付印は、クレードルのようなところにセットしておけば、毎日自動で日付が更新されるんです。もう、印を押す前に日付を確認する必要がない。これに慣れてしまうともう戻れません。
社内でこの電子日付印を使っている人は、みんなずっと使い続けています。ちょっと高価だったのか、売れ行きは……(笑)。でも自分では、本当にいい商品だったと思います。いい商品と、売れる商品はやっぱり違うんだなあと。

もうひとつ使い続けているのは、「ポメラ」ですね。発売して10年になりますが、今も愛用しています。
機能を絞り込んで、とにかく道具としての満足度をしっかりと作りこんでいった商品です。作家の方やライターなど、書くことを仕事にしている人ほど使ってくれているのが、道具としての完成度を証明してくれていると感じます。
なんでもできるのではなく、本当に必要な機能に絞り込み、キータッチなどの使い心地にもこだわる。切り捨てる部分と残す部分のバランスが大事だということも、この商品で再認識できました。

必要なものを追求すれば、新しい働き方にも自然となじんでいく

――働き方が変わっていくなか、ツールの開発にも変化はありますか?

最近の流れにあわせた商品として、立った姿勢でパソコン作業ができるような昇降台や、フリーアドレスなどでも便利な文具用バッグやペンケースなど、個人で使えるものも取り扱うようになりました。なんの変哲もないけど、実際に使ってみると便利、といったものですね。

これは、ずっとファイルを開発してきたからかもしれないんですが、見えないところにいろいろとこだわりがあるんです。特に、寸法にはこだわっています。たとえば「この商品は何ミリ」って決める時も、「半分に折ると人気の手帳にちょうど入るサイズです」って言われればOKだけど、「なんとなく決めました」みたいなサイズを出されたら絶対ダメですね。そこにはちゃんと理由がほしい。
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例えば、最近発売した「OCTOTATSU(オクトタツ)」。底に吸盤がついていて机に立てられるペンケースなんですが、このサイズも「小学生が使うなら」と仮定して、ランドセルのサイズやペンのサイズなどいろんなものの寸法をとことん調べて決めました。企画書の段階ではタコの絵が添えられていて、ダジャレみたいな商品名なんですけどね。

もちろん面白さは大事なんですが、面白いだけだったら“文具”じゃなくて“玩具”になっちゃう。面白さが第一ではなく、意味のある機能がついているかどうかが重要です。

キングジムの出す文具は、ちゃんとその寸法にも理由がある。だから使いやすいし、機能的なんだという自信があります。そのおかげか、文具用の仕分けバッグが、手芸をする人達に支持されて、むしろその用途での売れ行きが良くなったりという話もあります(笑)。使いやすさ、という点で共通していろいろな用途で支持してもらえるのは嬉しいですね。


――社内での働き方に変化は感じていますか?

フリーアドレス用の商品などを開発している割に、自社はそういったシステムはあまり取り入れていないんです。ツールなどがちょっとずつ変わってきているかな、というぐらい。ただ、ほかのオフィスを見学したり、展示会などで情報を集めたりするなかで、働き方が多様になってきているのは感じますね。これからの商品を考える時には、そういった働き方の変化にあわせていきたい。


――働き方やオフィス環境にどのように貢献したいですか?

開発した商品やサービスが、オフィス環境の改善に役立てばいいなと思っています。そのために、いろいろな選択肢が提供できるような商品ラインナップを用意したい。

ただ、それは「とにかく新しいものを追求する」というのとはちょっと違います。どんなに道具が変わっていっても、それを使う人間はそれほど変わらないですよね。体や手の大きさも、長い歴史の中でそれほど変わっていない。だから道具のサイズ感というのは、今まで使われてきたものが一番便利なんだと思うんです。
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ファイルを中心にやってきたわが社としては、A4サイズ、という寸法が基本にあります。会社で使うものはこのサイズを基本にしていけば、たいてい便利なんです。オフィスの棚にもちょうど収まる。

ただ、これが家庭を舞台にすると変わってきます。A4サイズのものは、リビングの棚にはうまくはまらない。となると、今後、家庭で仕事をすることが一般化した場合、リビングのサイズにあわせたオフィス用品が必要になってくるのではないかと予想できます。

そうやって、この先に必要なものを想像して、ニーズにあわせて開発していくことが、働き方への貢献にもつながれば素晴らしいですね。

text: 塚原智美
photo: 石原敦志

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