小さな東京を増やしてどうする?──面白法人カヤックが考える“街、企業、人”の豊かさの再定義 | akeruto_ はたらく未来のカギになる

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INTERVIEW

小さな東京を増やしてどうする?──面白法人カヤックが考える“街、企業、人”の豊かさの再定義

2020.12.03

社会環境の変化やデジタル化の進展などで都市圏以外の場所へと会社や住まいを移転するケースが出てきています。そんな潮流の先駆けとなる2002年から鎌倉に本社を置いた”面白法人カヤック”。

鎌倉の地をベースに、経済的な合理性だけを追い求めるのではなく、その場所、その土地の環境や人のつながりなどさまざまな魅力=地域資本を活かして、地域ならではの豊かさや働き方、コミュニティのあり方を独自に追い続けています。

 

同社が標榜し、従来からある財務諸表に根ざした経済合理性だけではなく、“環境”、“社会関係”、“経済”を新たな価値軸とする「地域資本主義」とはどういうものか。価値軸を増やすことで変わっていく働き方や暮らし方で、どのような未来が訪れるのか。

 

同社グループ戦略担当執行役員の佐藤純一さんにお話を伺いました。
カヤック社佐藤さんの1枚目の画像です。

カヤック社の企業ロゴです。
株式会社カヤック
グループ戦略担当執行役員
佐藤 純一 氏

大学卒業後、大手電機メーカー、技術系ベンチャーを経て2004年株式会社トラストコンベクションを創業。金融業や製造業における数千人規模のプロジェクトのリードから組織改革、チームワークサービスの開発まで、チームワーキングの楽しさや充実感を伝える事業を展開。2011年、ビジョンに共感した面白法人カヤックに統合し、同社執行役員に就任。現在は同社のグループ経営に関する戦略推進を担当する。

街の中に人と人がつながる仕掛けを作る

――まずは御社の事業概要からお聞かせください。

設立21年になるインターネット企業です。僕たちは「面白コンテンツ事業」と呼んでいますが、広告制作とゲーム開発など、エンターテインメント性の強いコンテンツの開発、制作が中心的な事業になります。

グループ会社には、ネット上のウェディングサービス会社やeスポーツなどゲーム周辺事業のサービス開発会社、ほかにも不動産会社、葬儀会社、林業など地域に根ざした事業会社などがあります。

そして、広告、ゲームに次ぐ3本目の柱として、地域活性化や地方創生に関連した事業を立ち上げました。鎌倉の地で学んできたコミュニティ活性化の手法を、他の地域にも提供しようと考えています。

 

――御社は最初から拠点が鎌倉にあったのではなく、東京や横浜にあった拠点を段階的に鎌倉に集約されています。

2002年に本社を鎌倉に移転し、2018年には横浜に置いていた大きな制作拠点も鎌倉に統合しました。その時点では正直、鎌倉に移ることに乗り気でない社員もいました。

 

――乗り気ではなかった社員の方は、どのように鎌倉という街を受け入れていったのでしょうか。

カヤック社佐藤さんの2枚目の画像です。

 

カヤックでは拠点を街の景色に溶け込ませ、同時に社員を街に馴染ませるためにオフィスを分散配置しています。

そうすると、社員たちは駅前から続く御成通りを自社の廊下のように行き来するようになり、当初乗り気ではなかった社員も、通りを頻繁に歩くことで顔見知りや友達が増え、地域でも知り合いができます。知らない土地でも、来てみれば友達もできて、コミュニティに自分たちが入っていくという感覚を味わっているようです。

 

――鎌倉の人たちからの反応はいかがですか?

今では、この鎌倉という街も、カヤックのことを受け入れてくれているように感じています。

つながりを特に意識するようになったのは、7年前から行っている“カマコン”という活動です。もともとは鎌倉を拠点とするIT系ベンチャーによる勉強会からスタートしましたが、今では地域に関心のある人が集まるコミュニティになり、皆でワイワイやりながらアイデアを出しあう場へと変化しました。

このように街でコミュニティを作って主体的に活動することで社員や会社としてのネットワークが広がり、僕たちも鎌倉がもっと好きになって、暮らしも楽しくなる、そういった実感を得ることができました。

 

また、僕たちが「まちのコイン」という地域通貨を企画し、その実証実験を鎌倉で行ったときにもつながりを実感しました。まちのコインとは、いろいろなお店や団体に使ってもらうことで、つながりを作って皆を仲良くするという特別な通貨です。

当初は(カヤックの社員のような)若い人たちが街に来て、煙たがっているかもしれないという懸念もありましたが、街の方もコミュニティの成長を楽しんでくれていることが分かりましたし、「まちの社員食堂(後述)やまちのコインをやってくれて良かった」と言ってくれる方も多くいます。

この数年間、鎌倉で学び、活動をしているうちに、受け入れられるようになったのだと、非常にありがたく感じました。

 

――なるほど。では、そういった経験がどのように『鎌倉資本主義』や「地域資本主義」という考え方につながったのでしょうか。

そんな体験を重ねることで、地域活性化や地方創生というのは行政が推進するだけでなく、民間コミュニティを中心とした“自分事として街に関わっていく場や仕組み”があれば、人はその街が好きになり、コミットしていくということに気付きました。

 

そして2018年には『鎌倉資本主義』という本を出版し、そこで初めて「地域資本主義」という言葉を形にしました。

街の中に人がつながる仕掛けをたくさん作っていけば、実際に人同士がつながっていくというものです。地域の中に友達ができたり、常連になってお店の人と名前で呼び合う仲になったりというのは、やはり楽しいことだし、幸せに結びつきますよね。

まちの社員食堂の画像です。

 

例えば、鎌倉を拠点とする企業・団体が合同運営する「まちの社員食堂」は働く人同士がつながる、「まちの保育園鎌倉」も働くお父さん・お母さんを通じて子供たちがつながる、今度は子供たちを通じてお父さん・お母さんもつながる。“人がつながっていくシーンを、どのようにして機能的につなげていくか”、それが「まちのシリーズ」と呼んでいる一連の活動です。

 

地域資本主義は、一見難しそうにも見えますが、街がそういう状態になっていくこと自体は、他の街でも体験できたらきっと楽しいと思います。そして、僕たちが後押しして、そういった体験を味わうことで、「楽しいからもっとやろう」が広がっていくことを目指しています。

仕事や暮らしの豊かさの資本は「環境」「社会関係」「経済」

――社員が鎌倉に住み、充実感を得ていることは、「効率を求めるだけでは幸せになれない」という柳澤社長の言葉をそのまま体現しているようです。佐藤さんご自身はその言葉をどのように受け止めていますか。そして、地域資本主義とはどういったものか、改めて詳しくお聞かせください。

効率を求める、すなわち「経済合理性だけではない」、「そこに固執するだけではない」と言っているところが重要だと考えています。

日本は戦後75年ずっと、経済発展が豊かさを作る、という風潮の時代でしたが、最近は価値観が多様化し、「経済発展がすべてではない」という風潮も生まれています。経済合理性だけで価値判断することが、実情と合わなくなっているのだろうと考えています。

 

そして、「地域資本主義」では、その地域に関わる人たちの豊かさを3つの地域資本で表しています。

環境や文化を表す「地域環境資本」、人と人とのつながりを表す「地域社会資本」、そしてお金に置き換えられる「地域経済資本」です。環境、社会関係、経済の3つを地域の暮らしの豊かさの資本=元手として捉えます。

地域が人とのつながりで経済を良くしたり、経済=キャッシュを使って環境を作ることもできるし、環境をお金に変えることもできます。企業活動と一緒で、資本を投資することでさらに資本を増やしていきます。

この環境・人間関係・経済の3つで地域が発展していく構造を、僕たちは地域資本主義と言っています。

 

――この地域資本主義と従来型の資本主義との違いはなんでしょうか?

地域資本主義の図版です。

 

これは、軸を増やしただけです。

つまり経済的に良好な地域が一番良いとするのではなく、経済的にはそこそこでも、例えば自然環境や文化環境があるのもいい。また、環境や経済はほどほどだけど、何か新しいことを始めるときに人が集まってくるといった人間関係の良好さなど、ひとつの地域に複数の価値軸を与えるという考え方です。

 

今は時価総額経営なので、企業の多くは財務諸表で表現される経済合理的な経営スタイルを求めます。しかし、企業には経済合理性だけではない価値観もあります。

例えば、カヤックに関わるすべての人の幸せというのは、経済合理的な判断をしていけばたどり着けるというものではありません。

同様にまちづくりでも、経済合理性というのは1つの軸でしかありません。どこの地域も同じように経済合理性だけを追い求めると、地域の個性がなくなりますし、経済合理性で東京に勝つことはできません。皆がそこを目指しても、単に小さな東京がたくさんできるだけのことです。

 

地域資本主義のように複数の価値軸を持ち込むことができれば、街は個性的になり、多様な価値観を体現できます。

価値軸を増やすという考えは企業も同じですし、何が間違いで、何が正しいという話ではありません。経済合理性だけで考えるのは、ある人にとってはハッピーかもしれませんが、ある人にとってはアンハッピーだと思うので、価値の軸を増やすことが重要だということです。街であれ、企業であれ、人であれ、多様であることが素晴らしいと思っています。

目指すは個性的な街が溢れて、人々の選択の自由が広がる未来

――時代が変わって、働く人にとって会社の選択肢が増えたように、地域にも個性を持たせた方が良いということでしょうか。

カヤックという会社は21年前に「面白法人」として会社をキャラクタライズし、コンテンツ化しました。

当時は、会社員がネクタイをしスーツを着て都心に向かうことが良いとされていた時代です。法人格も人格なので、社会にいろいろな人がいるようにいろいろな会社があってもいいではないか、会社も個性化すれば選択する自由が与えられるのではないか。そして、その選択の中であれば会社も個人もハッピーになれると考えました。

カヤック社オフィス内の画像です。

 

一方で地域に目をやると、現在でもあまり選択の自由がないように感じます。経済合理的な理由の中で皆が画一的な発展をしたということもあって、どこに行っても同じような景色に見えてしまいます。

価値軸を増やして街自体を個性化すれば、自分に合った街を選び、移住する人も増えるのでは、と考えています。例えばですが、“サイクルタウン”として打ち出して、自転車好きな人が集う街になれば、自転車関連のベンチャー企業が集まったり、大規模な自転車競技大会が開かれるようになるかもしれません。

「自分たちの街はこんな街だ」という個性を全面的に打ち出して街を開発することができたら、そこにはそれに共感する人が集まってきます。

 

――他の地域に話を持って行った時にハードルのようなものは感じませんか。

会社の場合、そこに所属する/しないを選べますが、地域の場合は「昔から住んでいるからそこにいる」というケースが多いので、基本的には選べるものではない。そして、ある意味、街の個性を何かに絞るということはその個性以外のどこかを省くということにもなるので、そこは難しいですね。その点をもう少しカジュアルに考えて、「まずはここからやっていこう」ということを徐々にやっています。

 

例えば今、小田原では 「まちのコイン」というコミュニティ通貨(電子地域通貨)を運用していますが、地域資本主義という考え方に共感してくれて、一緒にやろうという方が現れ、だんだんと増えてきています。きちんとやっていくことで少しずつ個性的になり、横並びではない街ができてくると思います。

カヤック社のネオン画像です。

 

地域活性化や地方創生といった活動は、大上段に構えていても続かず、「街の関係者皆が納得する個性とは」などと考えているとなおさら選択肢が狭まります。だったら、もっとカジュアルな領域の人が入ってくるといいと思いますし、その部分はカヤックの得意領域です。

 

例えば広告では、広告内の要素にギャップがある方がコミュニケーションを取りやすく、お堅いものを崩すことでバズります。僕たちはそういうコンテンツ作りをやってきているので、ストイックに課題に向き合うよりも、どうコミュニケーションにつなげるか、そのための工夫をいつも考えています。

 

そもそも、僕たちはコンテンツを作る集団なんです。そして、コンテンツはユニークで、独創的で、個性的なものを作っています。そういったコンテンツは万人にとって必ずしも安心安全で快適なものにはなりません。でも、そのコンテンツを好きになってくれる人にとっては愛着や親しみを感じてもらえるものです。そんな、コンテンツ的な街づくりをしていきたいと思っています。

 

――佐藤さんは、この地方創生系事業を続けていくことで、どのような未来を描こうとしていますか。

カヤック社佐藤さんの3枚目の画像です。

 

国内や海外に個性的な街が溢れて、選択の自由が広がる未来です。

 

国が地方創生戦略で、東京一極集中をやめて地方への移住を勧めていますが、まだ多くの地域で東京を超える、“選ばれるだけの個性”が見えてないように思います。しかし街が個性を持ち、選ぶ価値があれば、利便性に多少難があってもそこに住み続けるでしょう。

コロナ禍の影響で、テレワークが広く普及し、地方の都市部に移住するという流れも出ています。自分の好みやスタイルに合う地域を選ぶということができてくると面白いと思いますし、人々の暮らしや仕事がもっと豊かになると思います。

ずっとエンタメコンテンツを作ってきたカヤックらしく、いろいろな地域のポテンシャルを汲み取りながら、一品一様のまちづくりをしていきたいですね。

text: 伊藤秋廣
photo: 石原敦志

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