"カギ"は活動の時間割合とモビリティ──イトーキが進めるABWを採り入れた働き方変革とは | akeruto_ はたらく未来のカギになる

Akeruto はたらく未来のカギになる

INTERVIEW

“カギ”は活動の時間割合とモビリティ──イトーキが進めるABWを採り入れた働き方変革とは

2020.02.25

オフィスの総合ファシリティデザイン企業であるイトーキ。「明日の『働く』を、デザインする。」をミッションに掲げ、さまざまな空間、環境、場づくりをサポートしています。

同社では、2018年10月に新しい働き方「XORK Style(ゾーク・スタイル)」をスタート。同時に、新しい働き方を支える機能要件や品質基準を具現化した新本社オフィス「ITOKI TOKYO XORK(イトーキ・トウキョウ・ゾーク)」を東京・日本橋に開設しました。

「オフィスづくりのプロ」である同社が、働き方の「変革」に本格的に取り組むようになったきっかけは何か、新しい働き方「XORK Style」とはどんなものなのか。さらに、昨秋開始した「Activity Based Working(ABW)」のコンサルティングサービスについて、働き方変革に関連する複数のプロジェクトを推進する藤田浩彰氏に伺いました。

イトーキ取材の1枚目の画像です。
イトーキの企業ロゴです。
株式会社イトーキ
営業戦略統括 マーケティング戦略企画室室長
藤田 浩彰 氏

同社の本社移転プロジェクトリーダー。「XORK Style」委員会のメンバーとしてABWの推進も手掛ける。

働き方の「改革」ではなく、抜本的な「変革」

――貴社が本格的に働き方改革に取り組むようになったのは、どのようなきっかけからですか?

2017年に、現在取り組んでいる中期経営計画の策定を行っていたのですが、最終年度である2020年の目標は非常に挑戦的なもので、社内の生産性向上なくしては達成できない内容でした。

そこで、目標達成のために働き方の抜本的な変革に取り組むべきだという結論に至り、具体策を中期経営計画に盛り込むことになったんです。ちなみに、一般的には働き方「改革」と言われていますが、当社では「働き方変革」と呼ぶことで、現状を「改める」だけではなく、一から変革するという姿勢を示していることも特徴です。

 

当社はオフィスづくりのプロとしてさまざまな企業と関わってきましたが、近年お客様のオフィスを取り巻く課題感がどんどん大きくなっていると感じるようになりました。それに伴って当社のセールスモデルも徐々に変化し、これまでは総務部門とのやり取りがメインでしたが、昨今は情報システム、人事、経営企画などいろいろな立場の方とコミュニケーションを取りながら提案する必要性が出てきました。

つまり、1つの提案に従来よりも時間を取られるようになり、当社が大事にしてきた「お客様に対して能動的に行動し、積極的に情報提供して新しい提案を差し上げる」時間がなくなっていたんです。実際に営業部門が「能動的な対応」にどれくらい時間を使えているかを測っているのですが、年々少なくなっていることも判明し、危機的状況にあると考えられました。

とはいえ、当社も人材不足ですし、かと言って残業を増やすわけにもいきません。お客様との接点を増やし、中期経営計画を成功させるには、生産性向上のために働き方を抜本的に変革するしかないという判断になりました。

「今のオフィスは、オフィスとして全く機能していない」ことに気づく

――どのような「生産性に対する課題」が洗い出されたのでしょう?

都内にある拠点の社員約800名を対象にアンケート調査を行ったのですが、結果は厳しいものでした。「オフィス内での場所の選択肢に満足していない」が89%、「仕事の生産性にオフィスが寄与していない」が68%というもの。当社はオフィスづくりのプロであり、働く環境としては決して悪くなかったはずですが、この厳しい結果に「オフィスとして全く機能していない」と気付かされました。

また、「重要だと思う仕事とは?」という質問に最も多かった答えが「デスクで個人的に行う業務」で、当社が重視してきた「共同で行う集中作業」や創造につながる「非公式なコミュニケーション」などの回答はごく少数という結果に。やるべき業務が多岐に渡るため、目の前の業務を一生懸命やろうと思うほど、個人作業ばかりにフォーカスしてしまっていることがわかりました。

これらの結果から、オフィスのあり方を変えなければならないという強い危機感を抱き、「働き方変革プロジェクト」を立ち上げたのです。

 

――プロジェクトでは、どのような流れで働き方変革を進めていったのですか?

イトーキ取材の2枚目の画像です。

 

プロジェクトメンバーで話し合い、まずは「仕事の仕方」「空間と環境」「働き方のルール」の3つを新しく変えることを掲げました。そのうえで、改めて「イトーキのありたい姿」をプロジェクトメンバー全員で言語化し、「自立した多様な社員が、働く時間や場所、仕事の仕方そのものを自らデザインし、最大のパフォーマンスを発揮しながら、お客様の真の満足と発展に関わり続ける」と定めました。

そして、このコンセプトを「XORK Style」と名付けました。「XORK」とは、これまでの働き方「WORK」を次の次元へと進化させることを表現するために、アルファベット順でWの次に来るXとWORKをかけ合わせた造語で、組織の新たな価値創造と社員の心身の健康を実現する新しい働き方を指しています。

当社の「ありたい姿」にABWが合致した

――「XORK Style」のワークフォーマットになっているのが、「Activity Based Working」(以下、ABW)であると伺っています。

ABWには、皆で決めた当社の「ありたい姿」の実現方法を調べる過程で出会いました。ABWとは、「個人が最も生産性が高い場所や時間、相手を自己裁量で選択することができる働き方」を実現するための総合的な戦略のこと。今まで漠然と捉えていた仕事を「10の活動」に分けて再定義し、自らの働き方を自律的にデザインすることで仕事の品質と生産性を向上させるというものです。

ABWはヨーロッパやオーストラリアを中心に広がっているワークスタイルですが、もともとはオランダのヴェルデホーエン社(Veldhoen+Company)が創設し、これまでに300以上のプロジェクトでABW導入を支援しています。ヴェルデホーエン社のやり方を是非取り入れたいと考え、同社の中心拠点であるオーストラリアに当社の社員を数名派遣してリサーチを行い、正式に同社とコンサルティング契約を交わし、「自由な働き方」を体現しようと考えました。

 

――その結果、新本社オフィス「ITOKI TOKYO XORK(イトーキ・トウキョウ・ゾーク)」が誕生したのですね。

イトーキ取材の3枚目の画像です。

 

働き方変革を検討し始めたころは、オフィス移転なんて誰も考えていないことでした。しかし「XORK Style」のもと自由度の高い働き方を実現しようと考えたとき、果たして現状のオフィスで実現できるのか?という疑問が生じたことが移転のきっかけです。「社員が一体感をもって、活き活きと働けるセンターオフィス」というコンセプトのもと、都内4拠点を集約する形で新オフィスを構えることになりました。

 

「ITOKI TOKYO XORK」の特色はさまざまありますが、コンセプトは従業員の行動の自由を支える「空間機能」と、Well-Being(ウェルビーイング=健康経営)の概念に基づく空間品質基準“WELL認証”による心身の健康を基軸にした「空間品質」の2つです。

まずは「空間機能」。リモートワークの考え方が浸透し、当社でもオフィスや自宅、コワーキングスペースなどさまざまな場所で働くことが当たり前になっていますが、「オフィスの中での自由度」は高いとは言えない状態でした。そこで、ABWの考え方に基づき、想定される社員の活動を10に分類し、それぞれの活動において生産性と創造性を最大化する空間機能をデザインしました。

 

ABWの考え方に基づく「10の活動」
─ ヴェルデホーエン社(Veldhoen+Company)の研究に基づく ─


─────1人─────

①高集中(中断されることのない高いレベルの集中が求められる個人作業)

②コワーク(短い会話や質問などを交えメンバーと場を共有しながら行う個人作業)

③電話/WEB会議(物理的には一人で行う、バーチャル上でのコラボレーション)

 


─────2人─────

④二人作業(二人が近距離で横並びになり、じっくりと行う作業)

⑤対話(二人もしくは三人で行う議論や会話。予約でも突然でも良い)

 


─────3人─────

⑥アイデア出し(新たな知識やプロセスを構築するために行う三人以上の協働活動)

⑦情報整理(計画の進捗を整理・議論するための、三人以上の計画された会議)

⑧知識共有(三人以上のグループによる知識共有。主にプレゼンターが話す)

 


─────その他─────

⑨リチャージ(仕事から隔絶し、チャージや心身の切り替えを行う)

⑩専門作業(特別な設備を必要とする専門的な業務)

 

社員を対象としたワークショップを行って、10の活動ごとに理想の時間割合を決め、それをもとに増やしたい活動、減らしたい活動を議論しました。その結果、1人で行う活動の時間を大幅に削減し、当社が大事にしている共同で行う活動やリラックスの時間を増やし、同時に総労働時間を減らす「理想的な活動の時間割合」を設定しました。

さらに、その時間割合を「空間割合」に置き換えて、オフィスレイアウトに反映。10の活動それぞれをサポートする空間機能を設計し、部屋数や座席数まで細かく落とし込みました。
イトーキ取材の4枚目の画像です。

 

続いて「空間品質」。社員が自らの能力を最大限に発揮するには、心身の健康・健全も追求する必要があります。そこでWELL認証を導入し、「空気、水、食物、光、フィットネス、快適性、こころ」の7つの視点からオフィスづくりを行いました。

WELL認証における評価項目は約100項目あり、満たしている数によって認証取得の可否が決まり、さらにはシルバー、ゴールド、プラチナなどの認証のレベルが分かれますが、「ITOKI TOKYO XORK」は「WELL認証ゴールド(インテリア)」を取得しています。ちなみに日本でWELL認証を取得しているのは(2019年12月現在で)まだ3件のみとなっています。

モビリティが高い人ほど、生産性実感も上がる

――新オフィスに移転して1年が経ちましたが、どんな効果が出始めていますか?

従業員へのアンケートと行動データ解析によると、社員の満足度、業務充実度は確実に上がっており、ABWとWELL認証の効果が発揮できていると判断しています。

アンケートでは、日々生産性の高い仕事ができていると実感している人の割合は、移転前の32.4%から58.5%とほぼ倍増しています。また、知識やアイデアの共有しやすさは35.6%から52.1%に向上。オフィス環境を肯定的に捉えている人の割合も大幅に増えています。オフィス環境の肯定感は、特に若い世代で重視される傾向にあるので、これからの人材確保や人材の定着にも効果を発揮すると期待しています。

ワークスペースの選択肢についての満足度は、移転前の10.7%から現在は58.5%に大きく向上しています。以前はオープンオフィスで、自席が一番集中しにくいスペースになっていましたが、現在は活動内容ごとに作業空間を変えることができ、その時々で自分がすべき活動に専念できるだけでなく、音、光、作業姿勢なども空間ごとに最適化していることで、満足度が大幅に向上したと考えています。

 

一方で課題感を覚えているのは、モビリティ(移動性)について。どれくらい社内で移動しているかという指標ですが、行動データ解析によると、社内のモビリティが高い人の割合は移転前の13%から、移転後38%に上昇していますが、「これだけ大きな投資をして環境を変えたにもかかわらず4割程度に留まっている」というのが実感です。

アンケート結果からは、モビリティが高まると生産性実感も上がるという相関性が見えています。またWELL認証を取得して、空間品質基準の高い環境を用意していますが、モビリティの高い社員の多くが空間品質の変化をポジティブに受け止めているのに対し、モビリティの低い社員は環境に対する満足度が移転前とほとんど変わらないこともわかっています。そういったことからも、今後は社員のモビリティ向上に努めていきたいと考えています。
イトーキ取材の5枚目の画像です。

 

モビリティが高い社員と低い社員をそれぞれ解析してみたところ、

「職場の連帯感が高いと感じている人ほどモビリティが上がる」

「自身の業務に対する理解が深い人ほど、業務ごとの適正な場所がどこか判断できるのでモビリティが高い」

「若い社員は社内でまだソーシャルな関係性を築けていないので、移動して仕事をすることに対する不安感が高く、モビリティが低い傾向にある」

「目で見える範囲で『その場所が空いている』とわかれば動くが、見えない場所には動きにくい」

などの傾向が見えてきました。

 

そこで、①個人と個人、②個人とチーム、③個人と仕事、④個人とオフィス、の4つの関係性で信頼度を高める働きかけをすることで個人を束縛から解放し、より自由に行動しやすい環境を醸成したいと考えています。

 

――ABWについては、イトーキの新しいビジネスとしても展開しているそうですね。

「ITOKI TOKYO XORK」は、名だたるグローバル企業が採用しているヴェルデホーエン社のABWメソッドをワークスタイル戦略として採用する国内で唯一のワークプレイスですが、私たちは自社のABW導入ノウハウを活かして、ヴェルデホーエン社と新たに業務提携し日本国内でABWのコンサルティングサービスの提供を開始しました。

 

ABWを実現するポイントは、オフィス環境だけに注目するのではなく、「オフィス・IT・行動」の3つを統合した総合的な戦略を立てることにあります。

漠然と働き方を変えるのではなく、「より具体的に、活動ごとの時間の割合を変える」というのがABWの面白いところで、まずワークショップで理想の時間割合を作り、仕事の組み立て方、活動場所、マネジメントスタイル、働き方のルールといった「行動」を見直します。そして、デバイス、コミュニケーションツール、ペーパーレスなどIT分野を見直したうえで、理想の時間割合に合わせてレイアウト手法を変えたり、空間を高機能に変えるといった「オフィス」環境の変革に着手します。
ABWコンサルティングサービスでは、「ITOKI TOKYO XORK」においても行ってきたこれらの戦略をクライアント企業に対して実践的にご提案し、全社員を理想の働き方に導きます。
イトーキ取材の6枚目の画像です。

 

ABWは、「個人が活動をするときに最も生産性が高い場所と時間、相手を自己裁量で選択できる働き方」を実現するための戦略です。労働者人口が減少し、1人当たりの生産性向上が急務となっている日本市場において、ABWは効果を発揮しやすいはず。中でも、ビジネスが成熟期にあり、次なるステージを目指す企業には、フィットしやすいと思います。

実際、非常に多くの企業から引き合いをいただいており、「ITOKI TOKYO XORK」には日々、約150名もの見学希望者が訪問されます。企業規模や業種などの偏りはなく、あらゆる企業で働き方の抜本的な変革が急務になっていることを実感しています。当社が1年かけて実感した効果をもとに、自信を持ってお客様にご提案していきたいと考えています。

text: 伊藤理子
photo: 石原敦志

関連記事