"共創型コミュニティが新しい価値を生む"─職住近接の&donutsプロジェクトが描く「はたらく未来」 | akeruto_ はたらく未来のカギになる

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INTERVIEW

“共創型コミュニティが新しい価値を生む”─職住近接の&donutsプロジェクトが描く「はたらく未来」

2020.09.24

「人がいるところに仕事を移す」。この考えから、東京近郊の2拠点で職住近接の“&donutsプロジェクト”を実践する株式会社イノベーター・ジャパン。

子育て中の女性が働ける場所はないか─デンマークのコレクティブハウスをヒントに&donutsプロジェクトを立ち上げた同社代表取締役社長・渡辺順也氏に、職住近接の“共創型コミュニティ”の作り方やその効果、そしてそこから描く「はたらく未来」を語っていただきました。

イノベーター・ジャパン社取材のメインビジュアルです。

イノベーター・ジャパン社の企業ロゴです。
株式会社イノベーター・ジャパン
代表取締役社長
渡辺 順也 氏

テジタルとクリエイティブで社会を変えることを志し、慶應義塾大学を卒業後、日立ソフトウェアエンジニアリング、サイバーエージェントを経て、2010年にイノベーター・ジャパンを設立。

トライ&エラーを繰り返しながら形成したコミュニティ

――まずは御社の事業概要からお聞かせください。

イノベーター・ジャパンは2010年に立ち上げた会社で、7月で11年目に入ったところです。

当社の事業は、日本から世界へイノベーションを起こすという社名のとおり、日本のデザイン力や強みを活かし、“ITとデザインで顧客の事業に変革を起こしていく”というものになります。「イノベーション」という言葉を掲げて立ち上げましたが、今になってみると、これは「DX(デジタルトランスフォーメーション)」そのものでして、引き続きDXをお客様に提供していくということをメイン領域に据えています。

 

ただ、DXは領域がとても広いので、その中でもメディア領域に特化しています。

例えば、紙媒体を単にデジタルメディアに置き換えるだけでなく、デジタルメディアをプラットフォームとして、例えばECであったり、教育など多岐にわたるビジネス展開をしようというのが、我々が目指す「メディアをハブとしたDXモデル」であり、それを可能とするパッケージソフトウェアを開発しています。

 

――職住近接を実践している&donuts(アンドーナツ)プロジェクトについて教えていただけますか。

イノベーター・ジャパン社取材の2枚目の画像です。

 

ここ東京オフィスは、お客様と接して、DXの0→1の部分を担っていますが、次のステップとしてDXで生まれた新しい事業を運営・運用していかなければなりません。お客様の側でそれが難しい場合は、運用部分を我々が受託しています。その専門部隊が&donutsになります。

 

現在は、柏の葉(千葉県柏市)と湘南(神奈川県茅ヶ崎市)の2拠点を展開していて、子育て中のメンバーが子どもを連れて来られるオフィスづくりなどを通して、新たな働き方のプラットフォームとなっています。

運用業務の受託をすることになったものの、社内のメンバーでは対応しきれず、かといって人を採用しようとしても、東京でのIT人材の確保は競争が激しい。では、郊外や地方はどうかと探したことが、この&donutsのはじまりです。

 

とはいえ、決してスムーズに立ち上がったわけではありません。“人が集まるための箱”、“マネジメントを担当する人材”、そして“業務を担当する人材の母数”、という3点が揃う必要があるからです。

 

1回目のチャレンジは東京の某市でした。駅前のビルに空きフロアを見つけ、人が集まる箱は確保できたものの、マネジメントをする人材と出会えず、そこで立ち上げるのは難しいと判断し中断しました。

2回目のチャレンジは地方都市です。東京・某市とは反対に、今度はマネジメント人材から探し始めると、大学の同期で事業に興味を持ってくれる人が見つかりました。そして箱も探し始めて、「あとは業務を担当する人材だ」となったときに分かったのが、カルチャーの違いでした。

その地方都市周辺は製造業の大企業が多く、海外転勤などもあることから、少なくとも当時は、比較的女性が家事や子育てに専念することを求められる家庭が多いという環境でした。実際に人材が集まりづらく、2回目のチャレンジも断念しました。

 

そこで諦めかけましたが、やはり足元の人材が足りず、このままではスケールしないという課題があったので、立ち上げにあたって何かストーリーのある場所がいいのではと考え、私の地元でもある千葉県柏市に目を向けました。

そして地元の友人に自分の考えていることを伝え、マネジメントができる人材がいないかと聞くと、その彼の奥さんが「興味を持っている」と。奥さんに直接内容を伝えると、共感してくれて、それで2016年に柏市にて&donutsが立ち上がりました。

 

――2つの都市を断念し、最終的に渡辺さんの地元の千葉・柏で立ち上がったのですね。

イノベーター・ジャパン社取材の3枚目の画像です。

 

“柏の葉”というのは土地区画整理事業で柏市内に新たに開発された地域で、ここ10年ほどで住み始めた人が多くいました。

もともと都心のIT系の会社に勤め、結婚・出産を機に仕事を辞めたけど、“地元には経験を活かせる仕事がない”とスキルを持て余している人が多かったんです。それが&donutsで求める人材にぴったりとはまり、我々が仕事を持っていくと人材が一気に集まって来ました。

柏の葉オフィスでの経験から、上手く拠点を立ち上げるためには、“人が集まるための箱”、“マネジメントを担当する人材”、“業務を担当する人材の母数”に加えて、“そのエリアに暮らす人材とのマッチ度”も重要だということに気付きました。

 

柏の葉オフィスである程度の手応えを感じたので、2拠点目を考えようということになり、条件が揃う候補地を探すために各地で人を集めたイベントを行い、「どのような人が集まってくるのか」という点を確認しました。すると、湘南エリアが我々の求める要素に近いという印象を持ちました。

こうして、辻堂のマンションの1室に2拠点目の湘南オフィスを立ち上げましたが、1年も経たないうちに人が増えてスペースが足りなくなり、茅ヶ崎に移動して、現在に至っています。

北欧で見つけた、働くをハッピーにするデザイン

――&donutsの立ち上げにあたって、デンマークでの経験がヒントになったとお聞きしました。

そうですね。初めて訪れたのは2015年、この会社を始めて5年目のタイミングです。

知人が、デンマークにある「カオスパイロット(KAOSPILOT)」というビジネスデザインスクールに、日本人留学生1号として留学していて、来てみないかとお誘いを受けたのがきっかけです。その時、せっかく日本から経営者が来たので講義をして欲しいと言われ、短時間でしたが、日本のアントレプレナーシップなどについて話しました。すると学生たちが興味を持ってくれましたね。

 

カオスパイロットには面白いプログラムがあり、3年制の学校ですが、1年生のときに3~4人のチームを作り、世界中どこでもいいから自分のクライアントを見つけて、そこでコンサルティング業務をするという課題があります。私が講義をさせていただいたご縁から、以降3、4年連続で、当社に学生がインターンシップに来ています。

カオスパイロットのインターンでは、我々がクライアントになるので、課題の解決を学生に依頼します。そして1年目に出した依頼が「女性が働きづらい環境を北欧的な考え方で解決する」というものでした。その課題の裏には、実は別の狙いがありました。

 

当時はちょうど周りに子どもがいる人が増え、いわゆる「保育園問題」が顕著になっていた頃でした。でも、私には“保育園がないから働けない”ということがあまりしっくりこなくて、“他の国はどうなっているのか?”、“そもそも保育園がなくても働ける仕組みってできるのでは?”という疑問がありました。

 

そうした課題感を持つなか訪れたデンマークで、コレクティブハウス※を知り、“これだ!”と思ったんです。コレクティブ・コミュニティを再現すれば、“オフィスでも、代わる代わる子どもを見ながら、皆で働くことができる”、と。

※共働きの家庭や単身高齢者が増えるなか、子育ての共同化や触れ合いを求めて、仲間や親しい人々が生活を共同で行うライフスタイル

 

その考えとインターンの学生からの提案を併せたものが、このプロジェクトの原型になっています。

 

――海外からインターンを受け入れるというのは大きな決断ですが、講義の場などでその原動力となるような経験があったのでしょうか?

イノベーター・ジャパン社取材の4枚目の画像です。

 

特にそういうことはありませんでした。確かにインターンを受け入れるとなるとコストも掛かりますし、リスクも感じました。

でも、私は“よく分からないものは、とりあえずやってみた方がいい”という考えなので、やってみた、というところがあります(笑)常に実験だと思っているので。

 

実は、デンマークの教育にはこれに通じるものがあるんです。

まず座学で学び、理解したらやってみるというのが日本の教育ですが、「まずはやってみろ」というのがデンマークの教育です。一度谷底に落とし、どう這い上がるかを観察して、這い上がる過程でサポートし、這い上がった後に初めて答えを見せる。それが学びになる、と。

 

――コレクティブハウスの考え方を日本に持ち込むうえで、課題などはなかったのでしょうか。

北欧のデザインは日本でも高く評価されていますが、現地の美術館などを回ったとき、北欧デザインのルーツが日本、そしてドイツのバウハウス※(Bauhaus)にあることを知り、驚きました。“オリジナルは足元にあるじゃないか”、と。

※※1919年にドイツ中部の街ワイマールに設立された美術学校。世界で初めて「モダン」なデザインの枠組みを確立したと言われる

日本は島国ということもあり、自分たちが持っているものの価値を知らず、外のものを素晴らしいと思ってしまうところがあります。でも、外に出て、外から日本を見ると、自分たちのオリジナリティやデザイン力、強みが分かります。私は、“外から見て初めて気付けるものがある”という視点で、海外での経験を捉えています。

 

ですので、デンマークで見たものはヒントにはするけれど、そのまま日本に持ってくるということは考えていませんでした。

 

当時、博報堂のクリエイティブディレクターだった佐藤夏生さんの講義を聞いたときに、佐藤さんは「デコンストラクション(脱構築)が大事」とおっしゃっていました。“上手くいっているものを頭の中で分解し、抽出した成功要素だけを引き出しに詰めておいて、要所要所で使っていく”という考え方です。

なのでコレクティブ・コミュニティについても、そのまま持ってくるのではなく、分解した結果、シェアリングの部分が肝だと判断し、それを抽出しました。“仕事だけではなくて、色んな役割をシェアしていいんだ”という考えですね。その部分しか持ってきていません。

 

――反対に、デンマークから日本に持って来づらいと感じた要素があったら教えてください。

まだ難しいかもしれませんが、採り入れたいと思うことは2つありますね。

 

1つ目は社会全体のICT化の部分です。

日本では公共分野のICT化が遅れがちですが、デンマークは政府が率先して取り組んでいるので、予想以上にICT化が進んでいます。デンマークは人も資源も少ないので、なるべく効率的にやっていこうという考え方ですね。

さらに、デンマークには「生活を楽に、より良くしたい」という考え方があり、これが社会全体のICT化の推進を後押ししています。

一方で日本は従来から「たくさん働いた方が偉い」という考え方が根強くあるので、業務効率化のためのICT化が進みづらい。この「たくさん働いた方が偉い」という価値観は、時間的な制限のある“子育てをしながら働こうとする人”にとっても足かせとなります。この部分は根本的に変える必要があると思います。

 

2つ目は、デザインというものへの考え方です。

日本では、“いかにビジュアル的に美しく、かっこよくするか”が求められますが、デンマークでは、“いかに人をハッピーにするか”がデザインに求められます。

デンマークでは様々なオフィスを視察しましたが、日本で最近普及しはじめた上下昇降式のデスクを皆が利用していることに驚きました。流行なのかと質問したところ、「義務化されている」と答えが返ってきました。1日中同じ姿勢で仕事をするのは身体に悪いので、自治体が禁止しているとのことでした。また小さいモニターは目に悪いので、PCのモニターサイズも21インチ以上にするよう指定されていました。

このように、デンマークでは“いかに人をハッピーにするか”という視点で、ITやデザインが活用されています。その考えはぜひ日本にも採り入れたいと思いますね。

共創型コミュニティから生まれる、いくつもの新しいコト

――インターンの学生からの提案と渡辺さんの考えがリンクして&donutsが生まれたということですが、学生からはどのような提案があったのでしょうか。

彼らから出てきたのはシンプルなレポートで、ドーナツ状のオフィスで真ん中に子どもがいるというコンセプトイメージが提示されました。そこからの実装は我々が試行錯誤をしてきたところです。
&donutsのコンセプトイメージです。

&donuts コンセプトイメージ
(画像提供:イノベーター・ジャパン)

 

――学生が提案したコンセプトの先に何が見えたのでしょうか。

一言で言うなら「オープンにする」ということです。日本のオフィスは基本的にはクローズドですが、それをなるべくオープンにしていく。オフィス内にメンバーの子どもたちや家族がいてもいいと思いました。

 

東京オフィスの開業はインターン学生の提案の5年前の2010年ですが、ここも“オープン”をコンセプトにしています。なるべく区分けの壁を取り払い、来社された方にも我々の働く姿を見てほしいと考えました。むしろ、我々と関係がある方には自由にオフィスに来ていただいて、フリーWi-Fiがあるので、ここで仕事をしてもらってもいいですね。そういった関係の中から新しいプロジェクトや共創が生まれたらいいと考えています。

イノベーター・ジャパン社取材の5枚目の画像です。

 

この考え方とインターンの学生のコンセプトイメージには、かなり合致するところがありますね。

 

――共創型コミュニティというのは、“仕事”の場に“生活”を持ち込むことで生まれるものかと思いますが、どこまで生活を持ち込むのかという線引きは難しいのではないでしょうか。

現状は「特に線引きはしていない」と言って良いかもしれません。

1人の人がいて、その人は仕事も、生活もする人です。そこに線引きはありません。オフィスはそういった一人ひとりが集まる場なので、ある程度許容して、例えば本人や子どもの体調が悪い日があれば、それは組織として吸収していくべきことだと考えます。そこをバックアップできるということが、組織が存在する意味だと思っています。

 

実際、オフィスには子どもたちが来ていますが、当初想定していなかったメリットも起きています。“子どもが自分の親の働いている姿を見られる”というところです。

就活で初めて社会に出るというとき、会社で働くイメージが湧かないという人もいると思います。でも親の働く姿を見ている子たちは、10年後20年後に社会に出るとき、「働くって悪いものじゃない」「お母さんも楽しそうに働いてたもんな」と思えるのではないでしょうか。

“親が子どもに働く姿を見せる”、そして“子どもが親の働く姿を見る”ことで、働くのイメージ、そして実態も変わっていくのではないかと思っています。

 

――御社が発信する考えや価値観に共感して集まっているからこそ、相手を思いやりながら生活を見せることで、共創型コミュニティができていくということですね。

私は、自分の弱いところも含めて開示していくことで、初めて深いコミュニケーションが生まれるのではないかと考えています。例えばデンマークのワークショップでは、だいたい最初に自己開示をします。初めて出会ったメンバーが、互いを知ってからワークを始めるんです。

やはりコミュニケーションというのは、どちらかが先に開示しなければ始まらないと思っていて、私はまず自分から開示するようにしています。そうすると上手くいくこともあるので、皆が自己開示をする勇気を持つということは大事ですね。

 

――子どもや地域の人々にもオープンなオフィスを今後も展開していくのでしょうか。

はい。&donutsの次の構想がありますが、そこにつながっていきます。

 

当初は「東京郊外に住んでいる子育て中のお母さんたちが働く場」というところで始めましたが、コロナ後においては、男女問わず“郊外に住み、郊外で働く”ニーズは高まると思います。しかし、半年以上続く在宅勤務で、疲弊やしわ寄せが出ているのも事実です。このまま在宅勤務が続くとも思っていません。

イノベーター・ジャパン社取材の6枚目の画像です。

 

そうなったときに、この2つの間にある働き方が必要になってきます。それが今、我々が推し進めている「ワークニアホーム(Work Near Home)」、家のそばにあるオフィスで働くという働き方です。

私は、呼吸に例えると「働く」は吐くことだと考えます。そして吸うが「学ぶ」こと。この「学ぶ」と「働く」はセットなので、ワークニアホームのオフィスでは、「働く」のアウトプットスペースと、「学ぶ」のインプットスペースを用意します。さらにその中にはコミュニティスペースもあり、集まった人や地域の人がコミュニティを形成できるような場になります。これらをセットしたものをパッケージとして、全国に展開していきたいというのが今の構想です。

 

また、ワークニアホームには時間や労力を1つのものに独占されなくなるというメリットもあります。

それまで片道1時間をかけていた通勤時間が、ワークニアホームで浮いたとします。そこで生まれた2時間は、“さらに仕事”ではなく“何か新しいこと”に使う方がいい。

 

例えば都内の異なる会社で働く3人が、ワークニアホームで同じ場所で働くとします。するとそこでコミュニケーションが生まれ、Aさんが「この街でこんなことをはじめたい」と話すと、B・Cさんとも横の繋がりができて、新しいプロジェクトが立ち上がったり、副業が生まれるかもしれません。そして、それが地域ベンチャーになり、地域の町おこしになり、地域活性化につながるのではないかと仮説を立てています。

 

“町おこし”や“地域活性化”を狙って動き出すのではなく、ハッピーに働き、暮らす仕組みを作り、そこに人を入れることで、結果的に地域に新たな価値を生み出すという感覚です。

この構想には、カオスパイロットの校長も賛同してくれていて、2021年にはスタートさせる予定です。これが我々の考える「はたらく未来」のモデルのひとつです。

 

――日本人の働き方を根本的に変えていくのはなかなか難しくもあり、それだけやりがいもありそうですね。

以前スマイルズの遠山正道さんが、“これまでの日本は、事業を生み出し、拡大し、組織を大きくすることを目指したが、1人あるいは2人が食べていけるだけの流れ、循環ができれば十分事業だ。それを皆が作っていった方が、ハッピーなのではないか”というお話をされていました。

 

我々が考える働き方のモデルも、“日本中で実現し、流行らせる”のは難しいかもしれませんが、我々が変えられる範囲で実現し、まず成功事例を作ってみようと考えています。その成功事例が他者に影響を与え、徐々に全体が変わるかもしれない。

先程も言いましたが、私は常に実験だと思っています。勇気を持って、それをできるかどうかです。「まずは自分たちがプロトタイプになる」という考え方でやっていきたいと思います。

text: 伊藤秋廣
photo: 石原敦志

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