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INTERVIEW

組織とカルチャー崩壊の危機を乗り越えたグッドパッチの考える「真の働き方改革」とは

2019.12.02

UI/UXに特化したデザイン会社であるグッドパッチ。「ハートを揺さぶるデザインで世界を前進させる」というビジョンのもと、企業のさまざまなビジネス課題をデザインで解決する新進気鋭の企業です。しかし、創業6年目の2016年、急成長の陰で組織崩壊の危機を経験したといいます。
業績好調の中、なぜそのような事態に陥ってしまったのか。そしてどのような方法で組織を再建したのか。同社執行役員の柳沢和徹さんに詳しく伺いました。

グッドパッチ社取材の1枚目の画像です。
グッドパッチ社の企業ロゴです。
株式会社グッドパッチ
執行役員 経営企画室長 柳沢 和徹 氏

1982年生まれ。新卒でマーケティングリサーチ企業に入社。リサーチ業務、人事、事業企画、新規事業開発、経営統合業務、海外子会社への出向などを経て2017年にグッドパッチに入社。
入社後に経営企画室を創設し、人事、広報、事業開発などを担当。現在は事業開発室長を兼任。Goodpatch Core Valuesの再定義を実施し、組織カルチャーの改善・維持に努める。”Go beyond UI/UX Design”をテーマに、組織デザインの力をGoodpatchの新たな強みとすべく部内にPeople Experienceチームを創設。
経営企画室はリンクアンドモチベーション社のMotivation Team Award 2019を受賞。

創業時から「家族ファースト」の姿勢で、働きやすさを追求してきた

――今から3年ほど前、組織崩壊の危機があったとのことですが、そもそも御社は創業時から社員が働きやすい環境づくりに注力していたと伺っています。

代表の土屋(尚史)は23歳で結婚し、27歳で子どもを持ちました。そして、グッドパッチの創業前に生後間もない子どもを連れてサンフランシスコに渡り、エクスペリエンスデザイン会社のbtraxでインターンとして働いていた時期があります。
この経験から、「大きなチャレンジを応援し、支えてくれた家族を大切にしたい」「家族と一緒に過ごす時間を優先したい」との思いが強く、創業時から家族ファーストの体制を整えています。

この体制を支えているのは家族を大切にするということに加え、私たちの手がけるUI/UXデザインという領域はマーケットの変化が速いので、学び続ける姿勢を持ち続けインプットしていないといいプロダクトは生まれないという考えもあります。新しい体験を生み出す仕事は、頭のなかに余白がないと、絶対にいいアウトプットはできないので、余白が必要だと考えています。

そもそも無理なスケジュールの仕事ばかりでは、締め切りに間に合わせることに精一杯で、アウトプットに遊び心を加える想像力が発揮しにくくなってしまいます。そのため創業初期から「インプットする時間の大切さ」を社員に意識的に伝えるうち、自然とプライベートでのインプットも充実させる働き方になっていきました。最終的には社員の自主性に任せており、状況によって仕事を続けることもありますが、基本的に9割の社員は定時頃には帰宅しています。

土日もしっかり休み、メリハリを持って働くことを勧めています。その他にも、3年働いたらまとまった休みを取って、普段では得られない体験を通じて次の3年の飛躍につなげるために10日間の有給休暇を付与する「3X休暇」や、個人の生活リズムに合わせた働き方ができるよう「フルフレックス制度」を取り入れています。子どもを育てながら働く従業員のサポートの観点では、子ども1人あたり月2万円を支給する「子ども手当」も取り入れています。

 

――オフィス内にキッチンがあることに驚きました。ベンチャーではなかなか見かけませんが、社員が集う場になっているようですね。

グッドパッチ社取材の2枚目の画像です。

 

これは社長のこだわりですね。サンフランシスコでのインターン時代に訪ねた、DogpatchlabsというIntagramなどが入居していたシェアオフィス内にキッチンがあり、そこにいろいろな立場の人が集まってピッチ大会やそれに対するフィードバックが交わされ、Intagramのような世界中で使われる偉大なプロダクトが生まれていたそうです。
そういった環境はクリエイターにとって重要だと起業後も温め続けてようやく数年前に作ることができました。実際、このキッチンがいい社内交流の場になっています。

強いビジョンとミッション。そして策定したまま置き去りになったバリュー

――そんな御社がなぜ、組織崩壊の危機に直面することになったのでしょうか?

現在の社員数は約140人ですが、まだ30人ぐらいの規模だった2014年、ビジョンとミッションを策定しました。
ビジョンは「ハートを揺さぶるデザインで世界を前進させる」、ミッションは「デザインの力を証明する」。これらは私たちの目指す未来が明文化された非常に強い言葉で、社員全員が共感しています。「このビジョンとミッションを策定したから、グッドパッチは組織崩壊の危機を乗り越えられた」と言えるぐらい、一人ひとりに浸透しています。
ただ、ビジョンとミッションを実現するための行動指針である「バリュー」の策定に、1年半という時間をかけてしまったんです。

バリューが定まれば全員があるべき姿を共有したうえで自走することができますが、明文化された言葉が存在しないとそれが非常に難しくなります。
まだ規模が小さく、代表が1人でマネジメントできた時代は、彼が全社員を見て、時に軌道修正しながら1つにまとめ上げることができましたが、社員が増えて組織が複雑化すると、複数のマネージャーの間でメッセージを合わせる必要が出てきます。その時にバリューが存在しなかったことで、「会社としてのビジョンやミッションを実現するために個人としてどうあるべきか」がうまくメッセージングできませんでした。

事業の急成長に伴い組織も急拡大しているときで、「目の前のお客様のニーズに対応しなければ」と社内施策であるバリュー策定の優先度を下げてしまいました。さらに、その後決まったバリューを十分に組織に浸透させる前に評価制度に組み込んでしまったのです。これが組織崩壊につながるきっかけのひとつになってしまいました。

ボトムアップでバリューを作り直すことを決意

――そんな状況から、どうやって建て直し現在に至ったのか、教えていただけますか?

誰もがこんな組織状況のままでいいわけがないと思っていました。ただ、社員一人ひとりの思いや考えがさまざまな方向に散らばってしまっていて、それぞれのエネルギーが向かう先もバラバラになっている状態でした。そこで代表がバリューを作り直すことを宣言し、それに早々に着手したことが大きな転機になりました。

はじめにやったことは、前回のバリュー策定の反省です。浸透のさせ方、浸透し切る前に評価に反映したこと、マネジメント層のコミット不足など、さまざまな課題が挙がりました。議論を重ねる中で「社員に押し付けるものであってはならない」という思いを共有することができ、「皆の意見を聞き、ボトムアップでバリューを作る」と決めました。

 

――当時は100人規模になっていたと伺っています。全員の意見を聞くのは大変だったかと思いますが、どのような方法を取られたのですか?

グッドパッチ社取材の3枚目の画像です。

 

まずはバリュー策定に協力してくれるメンバーを社内で募りました。そこには60名を超える意思表明があり、キックオフにはその半数以上が参加してくれました。「現状を良くしたい」と思っている社員の多さに、改めて気づかされました。

その後、進め方を皆で決め、全社員参加のワークショップを実施しました。具体的には、「今のカルチャーでいいと思っていること(Keep)」「変えた方がいいと思うこと(Change)」「今から新しく獲得したいこと(Install)」の3つを全員に出してもらいました。100人がそれぞれ3つ挙げ、合計900ぐらいをカテゴリー分けして精査し、バリューのプロトタイプを公開しながら、皆で文章を練り上げていきました。

意見を伝える機会が用意され、それが反映されてプロトタイピングがどんどん良くなっていると実感できると、「バリューは自分たちのものだ」と意識が変わっていきます。プロジェクトが進むにつれ、少しずつバリューを自分事にしてくれる人が増えていくのを感じていました。

結果、キックオフから4か月で、5つの新しいバリューが完成しました。全社から集まった意見を練り上げ、ベルリンにある拠点にも飛んで同じように意見を聞いて…という過程を振り返ると、以前の反省を活かしたプロセス設計ができたと思います。

 

■新たに策定した5つのバリュー

Inspire with Why
Whyが人を動かす

 

Go Beyond
領域を超えよう

 

Play as a Team
最高のチームのつくり手になる

 

Craft Details, Create Delight
こだわりと遊び心を持つ

 

Good Design Equals Good Business
良いデザインを良いビジネスにする

 

――この一連の経験で、どんな学びがありましたか?

皆が大事にしているものを「言葉」にしてすり合わせる意味は大きいのだと改めて実感しました。新しいバリューは、グッドパッチのメンバーの日常的な行動や考えの中から生み出されたもの。決して特別なものではなく以前から大切だわかっていることなのですが、明文化したことで誰もが同じ言葉でそれを表現することができるようになり「やっぱり大事なことなんだ」と日々噛み締めるようになったと思います。

前回のバリュー策定時は、一度は皆の意見を聞きながらも、最終的にはトップが決めました。一方で今回は、「皆が信じているビジョンとミッションを実現するために、個人はどうあるべきかをバリューに落とそう」と策定の前段階から皆を巻き込んでいるので、納得度が格段に高かった。それだけ「ハートを揺さぶるデザインで世界を前進させる」というビジョン、「デザインの力を証明する」というミッションがグッドパッチで強く共感されているともいえます。

 

――これまでのお話を伺って、働き方改革において大切なのは仕組みではなく、「社員が納得感を持って働く」体制を作ることなのではないかと感じました。

その通りだと思います。それまでもビジョンとミッションは存在していましたが、それと自分たちの行動をつなぎ合わせる言葉がなかったので、エネルギーがいろいろな方向に分散してしまっていた。バリューを策定することによってそれらがうまくつながり、個人のあるべき姿も示すことができました。

会社が「船」に乗せるべき人は、「船を漕ぐ意思がある」人。船に乗せるための採用もカルチャー重視を徹底するように変化しています。
しかし、船がどこに向かうのかを示すのは、会社の役割。新しいバリューが「こっちの方向に行くから、一緒に漕いでほしい」というメッセージとなり、一人ひとりと認識を擦り合わせることができました。紡がれた言葉によって灯台に光が灯り、向かうべき方向を共有することができたのです。

これからも「人に向き合い続ける」を徹底したい

――新しいビジョンを策定する過程で組織がまとまり、行動指針(バリュー)が明確になったことで個人のモチベーションが上がる、そして会社としての強さにもつながっているのですね。では、バリュー以外に社員のやりがいや働き方向上のために取り組んでいることはありますか?

グッドパッチ社取材の4枚目の画像です。

 

私が入社した際のエンゲージメントスコア(編注:企業と従業員の”相互理解”や”相思相愛度合い”を測り、偏差値として示される指数)は46.7でしたが、71.2まで回復しました。
この過程で行なったことをいくつかご紹介します。

ミドルマネジメント(中間管理職層)チームの離職と立て直し

組織崩壊の危機を招いた背景には、ミドルマネジメント組織の構築に失敗したこともありました。経営陣とメンバー層の橋渡しがうまくいかないと、間に挟まれるマネージャーの心理的安全性が下がります。組織崩壊時は「メンバーと経営の間でうまく橋渡しの機能を担えないマネージャーが、メンバーと一緒になって経営を批判したり、バランスを取るよりもメンバー側に付くことでチームを維持しようとする」状態も発生していました。

マネージャーは上からも下からも要求を受け、時に組織で人間関係のストレスを一手に引き受ける立場ではありますが、それにめげずにコミュニケーションを取り、経営とメンバーの一体感を生み出せる人材にマネジメントを任せるべきです。 過去の失敗を糧に、マネージャーの任命を慎重に行い、経営陣が「会社があるべき姿」をマネージャーとしっかり共有してコミュニケーションを強化したことで、経営陣の想いがメンバーの一人ひとりにも伝わる状態が作れてきたと思います。

ナレッジ共有の仕組みづくり

当初は「一度やった失敗が別の案件でも繰り返される」「成功体験が共有されず、いわゆる『車輪の再発明』が発生する」という問題が常態的に発生していました。そこで社内で実施したほぼ全ての案件について、共通のフォーマットで情報が整理されるという状況を目指した施策を行っています。

ナレッジの蓄積を目指した取り組みでしたが、「今週のオススメナレッジ」などのキュレーション企画も走らせたことでナレッジがメンバーの目に触れる機会も増え、読者がコメントや「いいね」でレスポンスすることで書いた人のモチベーションも高まるという正のスパイラルも生まれました。いつしかタメになるナレッジを残したメンバーを称賛するカルチャーも育ち、ナレッジ共有はグッドパッチの強みに昇華しています。

「People Experienceグループ」の設立

グッドパッチ社取材の5枚目の画像です。

 

バリューの再設定を終えた直後、経営企画室直下に社員と向き合い続け、カルチャーの醸成を担う「People Experienceグループ」を設立しました。最近はEmployee Experience(従業員体験)とも呼ばれ注目を集めていますが、私たちは「社員」としてだけでなく「人」として向き合いたいという意思を込めて「People」と表現しています。

ざっくり言うと「社内広報」といわれる領域を全般的に担当し、全社総会などの社内イベントの実施、新入社員のオンボーディング(入社時の会社説明など)、あるいはバリューの浸透施策など、エンゲージメント改善のための活動を組織横断で行うチームです。

例えば毎月1回、従業員の交流を目的に行われるPizzapatchという社内イベントがあります。当日は17-19時には全社員がオフィスのホールに集まり、食事を囲んで交流します。もちろんこれは業務として認められます。組織崩壊時は参加者が少なく、存続の意義が問われたこともありましたが、PXチームが毎回クオリティの高いイベントに仕上げてくれるようになり、とても盛り上がるようになりました。

PXチームが、100人近い参加者が勤務時間を2時間使うことに対する責任感を持ち、経営陣やマネージャーが自ら率先して参加することでメンバーにも参加を促せる状態になったのも大きいです。社内イベントの際には毎回必ず参加率と満足度を測定し、参加者からのコメントをガッツリ読み込んで次回の改善につなげてています。
最近では、入社前や選考中の候補者の方に会社の雰囲気を知ってもらうために遊びに来ていただくことも増えており、会社の魅力をお伝えするという機能も持ち始めました。

1・3・6インタビュー

入社後1か月目、3か月目、6か月目に、私と新入社員とで1対1のインタビューを行なっています。
元々このインタビューは離職防止を目的に導入しました。退職者に会社を辞める理由を聞くと「それは解決できたじゃん!」と感じることも多かったのですが、既に退職の手続きを進めている中では努力の余地がありません。「だったらもっと早くキャッチして何とかしよう」ということで実施を決めました。

入社直後にインタビューするもうひとつの理由として、お互いの期待値のズレは割と初期に生まれやすいということがあります。会社として提供できること、お願いしたいことのすり合わせは入社後比較的早いタイミングで実施するべきです。

このインタビューは直属の上長でない人が実施することがポイントです。そもそも上司とのコミュニケーションに難しさを感じるメンバーもいますし、「気になっているけどわざわざ上司に言うほどのことでもないモヤモヤ」が積み重なって大きなズレに発展する可能性もあり、これを早めに察知して行動できれば取り除くチャンスは十分にあります。もちろん事前の確認ありきですが、小さなモヤモヤを打ち明けてくれたメンバーは多くの場合、私が改善のために行動することに合意してくれます。改まった場を設けることは「普段わざわざ言わないこと」を吐き出すきっかけとして有効です。

偉大なプロダクトは偉大なチームから生まれる

――新しいビジョンを策定する過程で組織がまとまり、バリュー(行動指針)が明確になったことで個人のモチベーションが上がり、会社としての強さにもつながっているのですね。では最後に、これから取り組んでいきたいと思っていることがあれば、ぜひお聞かせください。

グッドパッチ社取材の6枚目の画像です。

 

グッドパッチには東京を含めてベルリン、ミュンヘン、パリと4つの拠点があり、東京で組織崩壊が起こっている最中も、ヨーロッパでは創業当時のメンバーが元々のグッドパッチの良いカルチャーを醸成し続けていました。

そのグッドパッチヨーロッパでは、「カルチャーはアップデートされるもの」という考えのもと、グッドパッチが大切にしているカルチャーを言語化し「Goodpatch OS」としてまとめています。People Experienceに関する施策は、採用の前段階から退職手続きに至るまでこの「Goodpatch OS」を指針に組み立てられています。人事関連の施策は、他社の事例を聞きかじったり、誰かに言われて断片的なものになりがち。個々の施策を根底にあるカルチャーとのつながりを考えながらデザインしようという点において「OS」という概念は適しています。実際にiOSやAndroid、Windowsなどがそうであるように、OSに完成はなく、常に変化とアップデートを繰り返していくものだと思います。

私たちグッドパッチの従業員は全員がデザイナー。例えば人事は組織デザイン、広報はコミュニケーションデザインなどと考えることで、デザインの力をあらゆる職種に取り入れ、実際にパフォーマンスを高めていくことが可能です。「働き方」も同様にデザイン可能なもの。私たちを取り巻く環境は常に変化していますが、その中で従業員が何を大切にしているかに目を向け、寄り添い続けることが優れた体験を提供するために重要だと思います。

text: 伊藤理子
photo: 石原敦志

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