INTERVIEW
移転だけでは「理想のオフィス」は作れない。ここは3ヵ月ごとに進化する、常に未完成の実験場【ビービット】
2019.11.20
INDEX
2019年5月に新オフィス「UX Square Tokyo」に移転した、株式会社ビービット。
長くUXデザインコンサルティング事業を営んできた同社が作り上げたこの新しいオフィスには、UXデザインの考え方が応用され、社員のオフィス体験を高める工夫が随所に見られます。
しかしながら、最も驚いたのは「3ヵ月ごとに見直し、自分たちにとってのベストを目指して常にアップデートする」という方針です。
その仕組みと根底にあるUX改善の思想を、広報担当の和泉静香さんに伺いました。
株式会社ビービット
エクスペリエンスデザイン支援事業部 広報担当
和泉 静香 氏
女子美術大学芸術学部卒業後、イベント制作会社、WEB広告会社、WEBメディア、食品メーカーを経て2019年1月株式会社ビービット入社、広報PRを担当。
事業の変化に伴い人材が多様化。オフィスのあり方に課題を感じるように
――今回のオフィス移転には、どのような背景があったのでしょうか?
一番大きな要因になったのは、「事業の変化による人材の変化」です。
当社はずっとUX(ユーザーエクスペリエンス)デザインコンサルティングをメイン事業としていましたが、3年ほど前にUSERGRAM https://www.bebit.co.jp/usergram/ という分析ツールを開発し、注力し始めました。これはサイトなどでユーザーがどのような動きしているかを追う「シーケンス分析」を可能にするツールです。
ツール提供を強化していくなかで起こったのが、社内の人材の多様化でした。今までは、働いているのはほとんどコンサルタント。しかし、ツール提供を強化したことによって、カスタマーサクセスや、エンジニアが増え、外国人エンジニアの採用も進みました。働く人たちが以前と変わってきたんです。
――人材の多様化が、どのようにオフィス移転につながったのでしょう?
不満、とまではいかないですが、オフィスのあり方に課題を感じる場面が増えてきました。
例えばエンジニアって、すごく細かい作業をずっと同じ姿勢でやることが多いので、気分転換をできるスペースが欲しいそうなんです。でも前のオフィスにはそういった場所はなかったので、「外のカフェに行かなきゃいけない」というのが実情で…。
コンサルタントなら訪問で外に出る機会もありますが、そうではない人も増えてきて、メンバーそれぞれにとって働きやすい環境を整えていきたいという想いが強まっていったんです。
さらに社員数の増加など複数の要因が重なって、「じゃあオフィスを移転しよう」ということになりました。
――新たにオフィスをデザインしていくにあたって、どうやって詳細を決めていったのでしょうか?
UXデザインコンサルティングの思考を応用して考えていきました。ユーザーである社員がどんなことに不満を感じているのか、そこにある課題は何で、どうすれば解決できるのか。実はオフィス移転をメインで担当した者もコンサルタント経験者なので、そういう思考が得意なんです。
――感じていた課題として、「メンバーそれぞれにとって働きやすい環境になっていない」というのを先ほど挙げていただきました。ほかにどのような課題があったのでしょうか?
大きな課題になっていたのが、「コミュニケーションのとりにくさ」です。それぞれの席で集中していると気軽に話しかけたりはできなくて、話す相手はどうしても席が近い人に偏りがちになりますよね。
当社の社員はみんな真面目でコスト意識が高いので(笑)、どうしても雑談や部署を超えたコミュニケーションなどが起きにくい環境になっていました。
もう1つ大きいもので言えば、採用面での魅力付けです。先に挙げた部分と被りますが、「気持ちよく働けるオフィスなのか」が重要な判断基準になる方もいらっしゃいますよね。オフィスは間違いなく採用時のアピールポイントになると感じています。
業務内容や気分に合わせて働き方を選べる多様なオフィス
――新しいオフィスは完全にフリーアドレスで、カフェやファミレスのような席があったり、屋上もあったり、様々なスペースがありますね。
そうなんです。まず「気分転換ができる」という点で、「多様な場所から最適な席を選べる」ようにしました。
少し休憩したいときはカフェのソファースペース、しっかり集中したいときは集中用ブース、「眠いけどコードは書きたい!」というときはスタンディングデスク、そんな風に、自分の気分や業務内容に合わせて様々な場所で働けます。
――先ほどオフィスを見せていただきましたが、本当に皆さん色々な場所で働いてらっしゃいました。
使われていないスペースは無いのではないかというほど、みんな色んな場所を使ってくれています。私も、会議室を抑えておいたものの「今日は天気いいから屋上でやろうか」なんて言って、外の机でミーティングすることもあります。
――コミュニケーションや採用面の課題を挙げられていましたが、その部分は解消されたのでしょうか?
そうですね。
まずコミュニケーションを増やすための施策が「フリーアドレス化」だったのですが、今のところかなり効果が出ています。
以前は「管理本部」「営業」「コンサルタント」「開発」とエリアが分かれていて、入っていきにくい空気もありました。でも今はもう好きに座っていいので、隣がエンジニアだったりコンサルタントだったりバラバラです。固定席のときより話しかけやすく、別部署の人たちとの会話は確実に増加しました。
採用面では、やはり若い方やエンジニアの方へのアピール効果は大きいなと感じます。採用にあたっての魅力として、しっかり機能してくれています。
移転は実験の始まりに過ぎない。徹底的な改善思考でオフィスのUXを進化させる
――コミュニケーションや働きやすさといった大きな課題が解決されて、理想的なオフィスを実現できたのですね。
今のところはそうですね。でも、これで完成とか、これがベストとかは、まったく思っていません。
――といいますと?
このオフィスは、働く人たちのUXを高めていくための「実験場所」でもあるんです。
オフィスを見ていただくと気づかれるかもしれませんが、できるだけ無駄に物を置かず、いつでも変化できるようにしているんです。机の上にティッシュや電話機が無いのには、そういった意図があります。
――変化することを前提にオフィスを設計するというのは、初めて聞きました。
まずやってみて、フィードバックを得て改善していく。これがUXデザインコンサルティングの思考です。
例えば、移転して初めてフリーアドレスを導入したのですが、必ず「誰がどこにいるかわからない」という問題が発生しますよね。それを想定して、「QRコードを読み込むことで自身の居場所を登録できるサービス」を導入しましたが、こういうのって実際に使ってみないとわからない部分が必ずあります。
だから私たちは、3ヵ月ごとにオフィスを見直すことに決めています。誰かが決めたサービスを「こういうものだ」と思って使い続けるのではなく、「本当にこれが私たちにとってベストなのか?」を見直すんです。
これはオフィスに関することに限らずですが、当社ではよくGoogleフォームを使って社員にアンケートをとります。社内で導入したサービスや新しい社内制度についても「継続すべきか否か」「こうやったほうがいいのでは?」とみんなが考えるし、意見を言い合える文化があるんですよね。
事業の軸である「UX改善」が全社員の根底に流れているので、社内に向けてもそういった思考になるのではないかと思います。
すべての要望は叶えられない。だから「課題の最短解決」と「改善」にこだわり続ける
――常に社員からの意見を吸い上げてオフィスを改善していこう、そのために変化しやすくしておこう、という発想は面白いですね。一方で、社員からの要望を吸い上げるのって難しさもあります。全員の要望を受け入れるわけにはいかないし、どうやって取捨選択しているのでしょうか?
おっしゃる通り、すべての要望を実現することはできません。だからこそ、UX改善の思考が必要なんです。最もボトルネックになっている課題は何で、どうすれば最短で解決でき、インパクトがあるのか。そういった視点でやること、やらないことを決めていけばいいのだと思います。
そしてもう1つ重要なことは、「改善し続ける」という意志です。あらゆることを実験と捉え、やってみて改善していく。その過程だと思えば、例えある時点で要望が反映されなくても「聞いてもらえないならもう要望とかは言わなくていいや」とはならないのではないでしょうか。自分の要望がいつか試行の対象になるかもしれないし、ほかの要望をやってみた結果、まわりの意見も変わってくるかもしれない。
「ちゃんとより良くなっていけるだろう」という信頼があるから、社員全員が意見を言う姿勢を持ってくれるし、その時々の課題に合わせて最善の方法を選んでいけるんだと思います。
――お話を聞いていると、「UXを高める」という視点が社員の皆さんに共通しているんだなと感じられます。
それはおっしゃる通りだと思います。コンサルティング事業においてもUSERGRAMにおいても、なにより大事にしているのはユーザーで、「どうしたらユーザーを幸せにできるのか」を本気で議論する土壌があります。
より良いユーザー体験を作るという前提をみんなが共有できているから、「オフィスを改善し続ける」のもある意味では当たり前なのかもしれません。これからも社員みんなの意見を聞きながら改善し、社員のエクスペリエンスを高め続けていきたいですね。
text: 青木麻里那
photo: 石原敦志
akerutoでは「ビジネスの現場における〇〇〇〇」を募集させていただいております。
※弊媒体のルールや取材基準に則った案件のみ、お受けしております。