FEATURE
総務省の発表によると、2014年当時の米国のテレワーク導入企業率は85%でした。
いま、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の拡大の影響を受けて、米企業ではさらにテレワークの推進が進んでいます。
日本でも新型コロナウイルスの感染拡大が始まってから、テレワークを導入する企業が増えましたが、リサーチ・コンサルティング会社のJ.D.パワージャパン(J.D. Power Japan, Inc.)が米本社と共同で行った調査では、日本人の23%がWeb会議への接続や参加を難しいと感じると回答しており、同じ回答をした米国人の割合が9%だったことを考えると、日本ではまだテレワークを不慣れに感じる人が多いようです。
今回は、セキュリティ対策、ホームオフィスづくり、人事評価、そして新入社員の入社研修などについて、米企業がテレワークに取り入れている施策を紹介します。
ITセキュリティ
2020年8月、マイクロソフト社(Microsoft Corporation)がインド、ドイツ、英国、米国で500人以上の従業員を有する企業の管理職800人に行った調査によると、回答者の58%が新型コロナウイルスの感染拡大後にITセキュリティに関する予算を増やし、82%がITセキュリティの人員を増やす予定であることがわかりました。
サイバーセキュリティは、テレワークが浸透し始めた日本においても気になるトピックの1つですが、米サイバーセキュリティコンサルティング会社CI Securityは、サイバー犯罪から身を守るための重要事項として、以下を挙げています。
▼テレワークにおける従業員のIT環境を管理する
・公衆無線LANの使用を禁止する
・業務に関するファイルはクラウドで管理させ、ファイルをダウンロードして作業する場合は会社が支給したPCを使用させる
・重要な情報を含む電子メールを送信する際はパスワードを付けさせる
・カフェなど自宅以外の場所で作業する際は、モニターの覗き見対策をさせる
▼従業員の在宅勤務用のPCを管理する
・二要素認証を導入する
・パスワードマネージャーを使用させる
▼従業員に対して、フィッシング詐欺対策のトレーニングを行う
▼従業員に対して、情報セキュリティ管理に関するトレーニングを行う
▼従業員にサイバーセキュリティに関する脅威を正しく理解してもらい、注意喚起をする
▼安全なVPN環境を構築する
快適なホームオフィスを作るコツ
テレワークを取り入れている多くの米企業が、従業員に向けて「オフィス・エルゴノミックス」(Office Ergonomics)を紹介しています。
「エルゴノミックス」とは人間工学を意味し、ハードウェアやソフトウェアなどを快適で使いやすくするために設計・デザインを研究することを意味します。
ここでは、「オフィス・エルゴノミックス」を取り入れた、在宅勤務を快適に効率よく行うためのアドバイスをいくつか紹介します。
椅子
脊柱の湾曲をサポートしている椅子を選び、高さは足が地面に平行になるように調整するか、足置きを設置します。
必ずひじ掛けがある椅子を選び、腕が休めるようにすることも大切です。
椅子はホームオフィスの中でも特に重要視されているアイテムで、スチールケース(Steelcase)やハーマンミラー(Herman Miller)がお勧めとしてよく挙げられています。
デスク
デスクの下は足が延ばせるように空間を確保することが大切です。
低いデスクの場合は頑丈なブロックなどで高さを上げて、スペースを確保しましょう。
高さが調節できるデスクや、昇降式のスタンドアップデスクの利用も推奨されています。
携帯電話
通話時でもスムーズにタイピングができるよう、電話を使用する際はスピーカー機能を使うか、ヘッドセットを利用しましょう。
ヘッドセットは、雑音を遮断して会話に集中できるため、Web会議が必須の在宅勤務にも強く推奨されています。
PC
よりフレキシブルな作業が可能になり、首や目の負担を減らすことができるため、デスクトップの使用が推奨されています。
会社からノートPCを支給されている場合は、外付けのモニターを用意するなど、デスクトップPCに近い環境を用意しましょう。
さらに、可能であればモニターは2つ設置すると良いでしょう。Web会議をしながら、もう片方のモニターで作業を行ったり、資料を参照できて便利です。
その他
マイク・ビデオカメラ:PCに内蔵されているものではなく、外付けの品質の良い製品を使用すると、Web会議の音質や画質が向上するので管理職や営業職の人にお勧めです。ビデオカメラは、ノイズキャンセレーション機能のあるものが推奨されます。
また、太陽の光は集中力を高めます。
ホームオフィスにはできるだけ自然の光が入るようにすることも多くの企業が勧めています。
人事評価制度
米国では、多くの企業が労働時間ではなく成果を重視した人事評価制度を採用しています。
360度評価を取り入れている企業も多く、上司、同僚、部下など評価対象者と立場や関係性が異なる複数人から企業のカルチャーバリューを基にしたフィードバックを得ることで、組織全体の成長、チームのさらなる発展、個々の能力の開発に役立てています。
目標を達成したかどうかだけではなく、チームにどれだけ貢献したか、チームメンバーのサポートができたかどうかなどを評価に加える企業もあります。
全従業員が世界中からテレワークで働く米GitLab Inc.では、採用時に各地域の給与レート、職種による給与レート、候補者の経験を考慮して給与を決定します。
また1年に1回行われる人事考課では、個人のパフォーマンス評価に加え、多様な国で働く従業員間の公平性を担保するため各地域における様々な要素(物価、給与水準、為替レートほか)も加味されます。
同社のWebサイトには、人事考課時に考慮する要素の内容や計算方法のほか、各職種のグレードに対する昇給率なども紹介されており、毎年新しい情報に更新して評価の透明性を確保しています。
また従業員に対しては、1日の労働時間や、何時にどこで働いていたかは問わないことを明確に述べています。
賞与に関しては、日本では1年に2回、月給の数か月分が全従業員に支給されることが一般的ですが、多くの米企業の給与制度は年俸制となっており、賞与は必ずもらえるものではなく、会社の業績に連動してインセンティブとして支給されます。
役員や管理職は、企業の収益アップに貢献したと見なされた際にインセンティブが支払われることがあるほか、営業職の場合は、目標数値の達成度に基づき明確なインセンティブが示されています。
管理職や営業職以外の従業員に対しても、企業への貢献が認められた場合や昇進した時などに、ストックオプションがインセンティブとして支給されるケースが多く見られます。
なお、テレワークを導入している米企業の多くは、従業員を信用してパフォーマンスにフォーカスした評価を行っていることを自社のWebサイトの採用ページなどに明記しています。
新入社員の入社研修
新型コロナウイルスの感染拡大の影響を受けて、入社初日からテレワークで仕事を始める従業員が増えており、入社する従業員側も、受け入れる企業側も不安があるかと思います。
GitLabをはじめグローバル展開する米企業の多くは、テレワーク中心の従業員に向けて、明確なガイドラインを自社のWebサイトで公開しています。
内容は、会社概要、CEOからのメッセージ、会社のカルチャーやバリューの紹介、各チームの紹介と連絡先、コミュニケーションに関するガイドライン、行動規範、出張、経費、給与に関するガイドライン、各種トレーニングの紹介などで、テキストだけではなく、動画や録画したウェビナーも活用しています。
また、入社後1か月間に必要な作業を、初日から5日目、2週目、3週目とそれぞれリスト化し、必要な連絡先や動画を見たりトレーニングを受けるタイミングなどをWebサイトで紹介したり、メールで指示を出すなどをしています。
さらにマネージャーには、Web会議を利用したオンラインでのチームアクティビティの開催や、1on1ミーティングの実施を促し、新入社員にも積極的にチームメンバーとオンラインでカジュアルなコミュニケーションを取ることを推奨しています。
ニューノーマル時代の日本の働き方
米国は国土が広く、労働時間の管理がフレキシブルであることから、新型コロナウイルスの感染拡大前から日本よりもテレワークが浸透していました。
しかし、新型コロナウイルスの影響が拡大してから、日本でもテレワークが広まり、今後は少しづつ定着していくことが予想されます。
米国とは労働に関する法律や、文化、習慣など異なる部分も多いですが、2回にわたってお届けしたテレワーク先進国米国の企業の取り組みから、心身ともに快適に、そして生産的にテレワークを行うためのヒントが学べるのではないでしょうか。
▼テレワーク先進国米国
②テレワーク導入率85%の米企業に学ぶ─ITセキュリティやホームオフィスづくり