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新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の拡大をうけ、日本でもテレワークが急速に浸透し、在宅勤務や社外で業務を実施する人が増えています。
そのような状況下で、リサーチ・コンサルティング会社のJ.D.パワージャパン(J.D. Power Japan, Inc.)が米国本社と共同で行った調査によると、Web会議への接続や参加を難しいと感じた日本人の割合は23%、米国人は9%でした。
また、Web会議の各機能について「簡単に使用できたか」という質問に対しては、日本人の20%が難しかったと答えたのに対し、米国人は6%でした。
この結果を見ると、国土が広く、新型コロナウイルスの感染拡大前からテレワークが進んでいた米国と比較すると、日本はWeb会議やテレワークに不慣れな人がまだ多いようです。
今回は、テレワークの代表的なツールからWeb会議を効果的に行うためのルール、そして物理的に離れているメンバーとのチームワークの築き方やチームマネジメント法など、テレワーク先進国の米国の企業が取り入れている施策を紹介します。
テレワークに便利なコミュニケーションツールの活用
ここでは、米国の企業でテレワークや遠隔会議などで使われることの多いコミュニケーションツールを3つ紹介します。
Web会議システム:Zoom
米Zoom Video Communications社が提供するWeb会議システムです。
前述のJ.D.パワーの調査によると、米国で「1週間以内に直近で利用したWeb会議システム」は、Zoomが48%と圧倒的なシェアを占めています。
ここでは、Zoomの特徴をいくつか紹介します。
グループミーティング:無料版では、最大100名まで参加が可能で、最大40分までミーティングを開催することができます。
画面共有:参加者全員が自分の画面を共有できる機能です。プレゼンテーションだけでなく、動画なども音声付で共有することが可能です。
ホワイトボード:画面共有機能の一部で、図や文字などを書きながら会議を行うことができます。
リモートコントロール:ミーティング中に他の参加者に自分のマウスやキーボードの制御を与えることができる機能で、トレーニングなどで受講生のスクリーンを動かしてサポートすることも可能です。
チャット:会議中に個別または全体に向けてチャットを送る機能で、ファイルを送って共有することもできます。
挙手機能:質問がある場合や、意見に賛成するときなどに使える機能です。参加者一覧の画面から表示することができ、ホストに向けて意思表示をすることができます。その他に、「いいね」や「拍手」を送ることも可能です。
ブレイクアウトセッション:大人数で行う会議やトレーニング中にこの機能を使うことで、少人数のチームに分かれたグループディスカッションを行うことができます。グループ分けはホストが任意で行えるほか、1チームの人数を指定してZoomが自動的に参加者を割り当てることも可能です。
レコーディング機能:会議内容をパソコンもしくはクラウド上に録画・録音することができます。また、レコーディングした会議を参加者と共有することも可能です。
使用方法に関しては、YouTubeのZoomチャンネルで日本語版の動画が多数公開されています。
ビジネスチャットツール:Slack
Slackは、米Slack Technology社が開発したチャンネルベースのビジネスチャットツールです。
こちらも使い方がシンプルでわかりやすいことが魅力の1つです。
チャンネル機能:トピックやプロジェクト、チームごとにメッセージ、ツール、ファイルを1つのチャンネル上で共有できます。作成できるチャンネル数に制限はありません。業務の状況をチャンネル内で共有し、メンバーが同じ情報にアクセスできるため、円滑な情報共有・コラボレーションが実現できます。
ダイレクトメッセージ / グループダイレクトメッセージ:チャンネル全体に知らせる必要のないメッセージや、個人間でさっと交わしたいメッセージがあるときに、チャットのように使用します。
コラボレーションプラットフォーム:Microsoft Teams
Microsoft社が提供するコラボレーションプラットフォームです。
Web会議に関しては、上記に挙げたZoomの機能とほとんど同じですが、ZoomがWeb会議に特化したシステムであるのに対し、TeamsはMicrosoftが提供しているグループウェアのため、Web会議後もチャットをしたり、ファイルを共有することが可能です。
共同編集作業:Teamsの大きな利点は、Teamsのクラウド環境に保存されているWord、Excel、PowerPointなどのファイルを同時に編集できることです。Teamsでチャットをしながら資料を同時に編集するといった作業も可能です。
Web会議を快適に、効果的に行うためのルール
ソフトウェアのソースコード管理サービスなどを提供する米GitLab Inc.では、2015年の創業時から全従業員が世界中からテレワークで働いています。
同社は、今までの経験で培ったテレワークを成功させるためのコツをまとめたeBook「The Remote Playbook」も作成し、テレワーク導入を検討する企業やこれからテレワークを始めるワーカーに向けて、無料で公開しています。
ここでは、GitLabのWeb会議に関するガイドラインをいくつか紹介します。
その会議は本当に必要なのか?
GitLabでは、会議を設定する際に「この会議をすることで、どのような結果を得ようとしているのか」「本当に会議をする必要があるのか」をまず問うことを求めています。
これは世界68か国の従業員が効率良くリモートで業務を進めるため、従業員の負担となる不要な会議をなくそうという考えからきています。
また、会議の招待はできるだけ「任意参加」に設定するよう呼び掛け、招待された従業員が時差や業務時間の関係で会議参加が難しいときや、優先順位が低いと思った場合は、その旨を返信して不参加として良いとしています。
その際の返信メッセージの文例も紹介しており、
「現在、会議が多く、業務を効率的に進めるために優先順位をつけなくてはいけません。ミーティングをせずにこの問題を解決する方法を考えませんか?」
といったものや、
「招待ありがとうございます。この会議をする前に、まずオンラインツールでコミュニケーションをして、この議題をレビューしませんか?」
などが紹介されています。
Web会議中に他の作業をしてもOK
会議中に自分に関係のない議題が挙がっているときは、別の業務をしても良いことを公に認めています。
社内メンバーとの会議中はカメラをオンのまま作業をしても良く、社外メンバーが入る会議の場合はカメラをオフにして作業をするよう指示し、自分に関係のある議題に戻った際は、会議に参加するよう求めています。
Web会議の時間厳守
効率的に業務を進めるため、会議の開始時間と終了時間の厳守を求めています。
ストレスの溜まらないWeb会議のために
前述のように、GitLabでは不要な会議の開催をできる限り減らすことを推奨していますが、一方でコーヒータイムなど仕事以外のカジュアルな話をする機会をオンラインで行うことを推奨しています。
気軽に会話をする時間を持つことが、業務中の従業員同士のコミュニケーションを促進し、リモートで仕事をすることによる孤独感やストレスの軽減に役立つと考えています。
また、Web会議に参加する際は、場所を気にしないよう明確に従業員に伝えています。
GitLabのCEOは従業員に向けたビデオメッセージの中で、「子どもがWeb会議中に入ってきてしまうことは、世界で一番楽しい気晴らしだ」と述べています。
また、Web会議中の飲食も許可し、画面をオンにすることを強制しないように求めています。
テレワークでも強いチームワークを築くための施策
ここでは、メンバーが物理的に離れていても強いチームワークを築くための社内コミュニケーション施策を紹介します。
社内Wikiページ
世界各国に従業員を抱える米企業の多くが、どの国の従業員にも会社の大切な情報をタイムリーに共有できるよう社内Wikiページを作っています。
Slack
Slackにてテレワーク用のチャンネルを作り、テレワークで働いている従業員のエピソード、近況、アドバイスをシェアしてコミュニケーションを図っています。
動画メッセージ
管理職からのメッセージや、新入社員紹介、その他の通知を動画メッセージで配信し、全従業員と最新情報を共有しています。
トレーニング
新入社員向けの「ツールの使い方」や「経費の生産方法」など、動画を活用したオンデマンドのオンライン研修を多数用意しています。
チームアクティビティ
ゲームやクイズなどのアクティビティをオンラインで行い、テレワークでもメンバー同士のつながりの強化に努めています。
テレワーク時のチームマネジメント方法
米国の企業では、カルチャーコード(Culture Code)を重視するところが増えています。
カルチャーコードは、「将来こうありたい」という理想像であり、その理想を達成するために大切にしなくてはならない価値感や行動・考え方の指針を示すものです。
米国では、人材を採用する際も候補者が自社の「カルチャー」に合っているかどうかを非常に重視します。
創業時から全従業員がテレワークで働くGitLabも、前述の「The Remote Playbook」の中で、テレワークを導入する際に最も大切にするポイントの1つとして、「日々の業務を通じて、コーポレートカルチャーをチームメンバーに浸透させる」ことを挙げています。
部下と離れて働くテレワークでは、マイクロマネジメント(上司が部下の行動を逐一管理し、詳細まで干渉するマネジメント法)をしてしまいがちですが、マネージャーは「コーポレートカルチャー」を浸透させることでチームメンバーを信頼し、労働時間ではなく成果を見て管理をしてくことが重要だとしています。
日本における効果的なテレワークのあり方を模索する
冒頭で、米国と比較してWeb会議システムを「難しい」と感じる日本人が多いというデータを紹介しましたが、システムやツールは、使用時間が長くなれば次第に操作を覚え、違和感や困難さは薄まるものです。
またシステムやツールだけでなく、新しいルールや制度も、時間の経過とともに徐々に慣れてきます。
それと比較をすると、「テレワーク時のチームマネジメント方法」の欄で触れた“コーポレートカルチャー”のような理念や価値観の浸透は、時間だけでは解決できないものかもしれません。
日本の企業でテレワークを成功さるためには、自社のコーポレートカルチャーを明文化して、採用時に候補者が自社のカルチャーに合うかを見極めるという米国の手法に倣うか、あるいは、コーポレートカルチャー以外で従業員の“自発的な成果を求める姿勢”につながる別の理念や価値観を見出し、その浸透に努める必要があるのかもしれません。