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FEATURE

「進む方向に道を作る」──破壊と再構築、富士通の働き方改革

2020.12.22

企業特集記事①のメインビジュアルです。

 

「働き方改革関連法」(働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律)が成立したのは、2018年のこと。

以降、「少子高齢化に伴う生産年齢人口の減少」や、「育児や介護との両立」といった多様化する労働者のニーズに対応するものとして、政府主導の働き方改革が本格化しました。

そもそも働き方改革とは、生産年齢人口が減り、決まった時間に働くことが難しい人もいる中で、生産性の向上、就業機会の拡大、個々人の意欲や能力を存分に発揮できる環境の構築などを目的としたコンセプトです。

 

しかし2020年、働き方改革という言葉がこれまでとは異なった意味合いを持ち始めます。2020年最大のトピックスとも言える、新型コロナウイルス感染症の拡大による影響です。

 

全3回でお送りする特集「変貌する社会の新たなスタンダードを探究する企業たち」では、真の意味での働き方改革を加速した新型コロナウイルス感染症と共存する社会で、企業がどのようにこの災禍と向き合い、そして道なき道を切り拓いていくのかーーーその取り組みを追います。

新型コロナウイルスという“想定外のアクセル”

新型コロナウイルスは2019年11月に中国ではじめて確認されたウイルスとされ、WHO(世界保健機関)は“コロナウイルス感染症”と感染者が報告された“2019年”を組み合わせた「COVID-19(コヴィッド・ ナインティーン)」を正式名称としています。

歴史に目を向けてみれば、人類がウイルスの爆発的な拡大=パンデミックに直面するのは、今回が初めてではありません。14世紀の「ペスト」や19世紀の「コレラ」、1918年頃に流行したとされる「スペインかぜ」など、人類はこれまでにもパンデミックを経験し、数多くの犠牲者を出し、その上に歴史を築いてきました。

 

しかし、医療が飛躍的に進歩した2020年の12月現在でも、「新型コロナウイルス感染症の治療法が十分に確立されている」とは言い難い状況であり、生活をしている限り、新型コロナウイルスのことを意識せずにはいられません。

その事実は「密」や「ソーシャルディスタンス」といった、新たに生まれ、私たちが日常的に使うようになった言葉にも表れています。いずれも、感染症の拡大を防ぐために、「他人とは一定以上の距離を開けるべきだ」という考え方に基づき、政府や各都道府県の首長が中心となって呼びかけを行った結果、広まった言葉です。

「密を避けましょう」「ソーシャルディスタンスを心がけてください」と言われて、私たちはその意図をすぐに理解できます。しかし、去年までの私たちには意味すら通じなかったのではないでしょうか。

大都市ゆえの利便性と“過密”のジレンマ

これまで、人混みに溢れていることは、都会の象徴でもありました。「東京は人が多いからね」といった言い回しには、「発展している」とか、「人のエネルギーが集まる」「活気がある」といった、都市に向けられるポジティブなニュアンスも含まれていたはずです。

ところが2020年のいま、「東京は人が多いからね」と口にすれば、その意図するところは、多くの場合「ウイルスに感染する恐れが大きい」という意味を示しています。人混みに溢れていることは、ほとんどの人にとって「避けたいこと」に変わってしまったのです。

 

そして、この「人口が多い=ウイルスへの感染リスクが高い」という事実は、企業活動にも大きな影響を与えています。

令和元年の国土交通省の調べによれば、日本を代表する大企業のうち、50%を超える企業が東京に本社を置いており、これは「東京に本社があるとビジネスがしやすい」と考える企業が多いことを示していると考えられます。

 

(参考:国土交通省│「企業等の東京一極集中の現状」令和元年12月6日)

 

ところが、経済活動と新型コロナウイルス感染症の拡大は、非常に相性の悪い、対立する要素でもあります。経済活動とは、突き詰めれば「お金と物のやり取り」であり、さらに因数分解をすれば「人と人とのやり取り」でもあるからです。

人と人とが対面する機会が減るほど、新型コロナウイルス感染症は広まりにくくなりますが、企業活動には支障が出やすくなる。資本主義経済の現代において、これほど厄介なことはありません。

3兆円企業のコロナとの向き合い方ーーー富士通

そんな中、少し異なった切り口から新型コロナウイルス感染症に立ち向かおうとしている企業もあります。国内の総合エレクトロニクスメーカー 富士通です。

 

2020年3月の決算では、子会社を含む連結の売上高が3兆8500億円以上、総資産でも3兆円を超える名実ともに超大型の企業です。富士通は、2020年の7月に全従業員を対象に「原則テレワーク体制」に移行していくと発表したのです。

大企業の取り組みということもあり、各メディアがこぞって取り上げたので、このニュース自体は目にした方も多いかもしれません。ここでは、もう少しその詳細に迫ってみましょう。

 

この発表時、富士通が提唱したのが「Work Life Shift」というワードです。これは、Work(仕事)とLife(生活)を包括的にShift(変更)して「Well-being※)」を実現すると言った意味合いで使われました。

 

※個人としての心身も満たされ、社会的にも満たされ、「良好」な状態を示す言葉。公的な場でのコンセプト発表や、企業理念などにもたびたび引用される。

 

同社は、Work Life Shiftという言葉は「Smart Working(最適な働き方の実現)」「Borderless Office(オフィスのあり方の見直し)」「Culture Change(社内カルチャーの変革)」の3つの要素から成り立っていると説明しています。

それぞれの要素は、在宅勤務の環境整備費用の支給や、人事制度の見直しといった具体的な目標から成り立っています。その中のひとつである「オフィス面積の50%の削減」に関しては、2022年度末までの実現を目指すと同社は公言しています。

そのほか、介護や配偶者の転勤といった事情で転居が必要になった際にも、遠方からの業務対応や出張で勤務できる制度づくりや全席のフリーアドレス化、出社が必須な業務とテレワークでも対応できる業務の振り分けなども含んでいます。

 

同社の発表を聞いて、私が感じたのは「富士通は、ここまでやるぞ」という意気込みです。つまり、Work Life Shiftの発表は、これから3兆円を超える売上を持つ富士通という企業を変革していくための宣言であって、同時に発表された施策は、「まずは、いまできる最大限の取り組みをしよう」ということに他ならないのです。

コロナが加速した現実解ーーー「破壊と再構築」

富士通のWork Life Shiftを突き詰めると、「破壊と再構築」と言えるのではないでしょうか。従来型の働き方を一度バラバラに解体し、働き方改革のそもそもの目的である“個々人の生産性を高めながら、それぞれの生活に寄り添うことを達成できるかたち”に組み換えていくという意図が見えます。コスト、リソースをニューノーマル時代に適した形に振り分け直していく作業とも言えるでしょう。

 

新型コロナウイルス感染症の拡大にも目を向け、感染のリスクを可能な限り抑えながら、生産性を従来以上に向上させる方法を探っていく。これは、資本力のある大企業だからできることだと考える人も多いでしょう。

しかし、この素早い方向転換は、大企業らしからぬ動きとも言え、身軽なスタートアップ企業のような俊敏さをも彷彿とさせます。

7月時点でここまで具体的な発表ができるということは、少なくとも数か月前からWork Life Shiftをテーマとした話し合いの場が持たれていたはずです。

新型コロナウイルス感染症が広がりを見せはじめていた春先、「これは長い戦いになる」と感じた人も多いと思いますが、「いつ収まるかな」と比較的早い段階での収束を前提に、思考を巡らせた人も相当数いたと思います。

 

従来型の働き方を一度壊してしまえば、元に戻すことは容易ではありません。富士通ほどの大企業ともなれば、それは尚更のはず。「資本力のある大きな企業」だから「このような取り組みができる」と評することもできますが、大企業なのに、かなり早い段階で世間に公表した、ということは「世間が混乱していたときに、冷静に新しい舵取りの準備をしていた」とも言えるでしょう。

 

富士通はWork Life Shiftの発表時「ニューノーマルの環境下においても、DX企業への変革をさらに加速させ、生産性を高めながらイノベーションを創出し続けることを可能とする新しい働き方として推進する」とコメントしています。

富士通の働き方改革には、「今ある道を進んでいく」のではなく、「進んだ方向に道を作ろう」という力強い意志が窺えるのです。

text: 海岡史郎

 

▼変貌する社会の新たなスタンダードを探求する企業たち

①「進む方向に道を作る」──破壊と再構築、富士通の働き方改革

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